研究課題/領域番号 |
18J12407
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
作田 郁子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | Pseudomonas / plasmid / conjugation |
研究実績の概要 |
本研究は、プラスミドの環境中での挙動理解を目指し、I. pCAR1の接合伝達におけるカチオン応答性の原理理解およびII. 受容菌の共存が接合伝達に影響を及ぼすメカニズムの解明を目的としている。 I. について、昨年度までにトランスクリプトーム解析および遺伝子破壊株の挙動評価から、pCAR1のPseudomonas putida KT2440株への接合伝達時の二価カチオン応答性に、外膜タンパク質のOprHが関与することを明らかにしていた。平成30年度はそれらの内容について、研究代表者を筆頭著者とした誌上発表および国際学会での報告を行った。 II. について、これまでに種々の細菌が混在する実環境条件を想定し、異なる不和合性(incompatibility; Inc)群に属する4種のプラスミドを用いて供与菌1種に対し受容菌が2種同時に存在する接合(1:2接合)を行い、同種の受容菌の共存は異種への接合伝達に影響を及ぼす場合があることを明らかにしていた。平成30年度はこの4種のプラスミドの挙動評価について誌上発表を行った。 また、P. putida KT2440株およびPseudomonas resinovorans CA10dm4株を受容菌とした場合に、NAH7のP. putidaからP. resinovoransへの伝達頻度が検出限界以下となる現象に着目して、プラスミド由来の挙動決定因子をトランスポゾン(Tn)挿入変異株のスクリーニングにより探索した。NAH7上でランダムにTnが挿入された260株より、1:2接合条件下でP. resinovoransへ高頻度で伝達する株を8株取得し、Tnの挿入位置を決定した。8個のうち6個はTn4655領域上に、残る2個はそれぞれparC、traC遺伝子上に挿入されており、当該領域の関与する可能性が示唆された。さらに、NAH7と同じIncP-9群に属するpWW0の挙動評価も行った結果、pWW0は1:2接合条件下でもP. putidaから2種の受容菌へ同程度の割合で伝達した。NAH7とpWW0で挙動が異なったことから、本現象はIncP-9群プラスミドに共通する因子に起因しないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pCAR1の接合伝達におけるカチオン応答性の解析について、目標としていたOprHの作用原理理解に向けた研究の進展は見られなかったものの、異なるプラスミド・宿主を用いたカチオン応答性の一般性の評価およびトランスクリプトーム解析による作用因子OprHの同定について、誌上発表に至る成果を見せた。 複数の受容菌の共存下でのプラスミドの接合伝達における受容菌選択性の解析については、4種のプラスミドの挙動評価を行った内容について誌上発表を行った。また、プラスミドNAH7上の作用因子探索としてトランスポゾン挿入変異体を用いた解析を行い、プラスミド上に複数の作用因子が存在しており、中でもナフタレン分解遺伝子群を含むTn4655領域が関与している可能性を見出した。さらに、不和合性群IncP-9群に属するプラスミドpWW0の挙動評価から、受容菌の選択性はIncP-9群のプラスミドに共通する因子に起因しないことも明らかにした。当初計画をしていた作用因子の同定には至っていないものの、プラスミド由来の因子の存在を明らかにし、また誌上発表に至る成果を見せたことから研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
I. P. putida KT2440株のOprHについて、異種発現系の構築および抽出条件を検討する。また、pCAR1の性線毛先端に局在すると考えられるタンパク質の抽出精製法を構築する。その後、OprHと性線毛先端のタンパク質のアフィニティ評価を表面プラズモン共鳴法等により行う。 トランスクリプトーム解析において転写変動した30個の候補遺伝子について、相同組み換えにより破壊株を作製し接合実験を行うことで、各遺伝子の二価カチオン応答性への関与の有無を検証する。新たに関与が示唆された因子について、タンパク質間あるいはDNA-タンパク質間の相互作用メカニズムの推定される場合には、表面プラズモン共鳴法もしくは等温滴定型カロリメトリー等により相互作用の評価を試みる。
II. これまでのBACクローンを用いた解析から受容菌の選択性への関与が示唆された受容菌P. putida染色体上の領域、およびTn挿入変異体のスクリーニングから関与が示唆されたプラスミドNAH7上の領域について、作用領域の絞り込みによる因子の同定を行う。 P. putida染色体上の領域については、各BACクローンの断片化によるサブクローン化および受容菌P. putida染色体上へのTn挿入変異株のスクリーニングによる作用領域の決定を試みる。また、NAH7上の因子については、Tn4655領域を欠落したプラスミドや関与が示唆された遺伝子を破壊したプラスミドの挙動評価により、当該領域の関与を実証する。 受容菌由来因子およびプラスミド由来因子の同定の後それら因子の作用メカニズムを推定し、推定されたメカニズムをもとに、各因子の機能解析により詳細な原理理解を目指す。また、因子間の相互作用が推定される場合には、ゲルシフトアッセイや表面プラズモン共鳴法等を用いて実証する。
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