本研究は、プラスミドの挙動決定に寄与する新規因子の同定および作用機序の解明を目的とした。平成30年度までに、供与菌1種に対し受容菌が2種同時に存在する接合 (1:2接合) を行い、プラスミドNAH7についてPseudomonas putidaおよびPseudomonas resinovoransを宿主とした1:2接合時に同種への接合伝達が優先される現象を明らかにしていた。また、本現象への作用因子探索の結果、接合伝達時のカチオン要求性への関与が明らかになっている受容菌の外膜タンパク質outer membrane protein H1 (OprH) が候補作用領域上に見出されていた。そこで令和元年度は、OprHの受容菌選択への寄与を検証した。 P. putidaおよびP. resinvoransのOprHはアミノ酸レベルで58.2%の相同性を有している。それぞれのoprH破壊株を受容菌とし、P. putidaを供与菌宿主とした場合のNAH7の挙動を評価した。1:1接合時のoprH破壊株への伝達頻度の低下、および1:2接合時のoprH破壊による受容菌選択性の低下が確認されたことから、受容菌のOprHはプラスミドの接合伝達(あるいは受容菌のプラスミド受容能)に正に寄与し、さらに受容菌選択に関与していることが示唆された。 また、NAH7の性線毛先端を構成するタンパク質MpfDと、各受容菌のOprHとの結合親和性をプルダウンアッセイにより評価した。MpfDはP. putidaのOprHと相互作用した一方で、P. resinovoransのOprHとの相互作用は検出されなかったことから、OprH‐性線毛間の結合親和性の違いが受容菌選択性に反映されている可能性が示唆された。 さらに、受容菌選択に寄与する新規受容菌由来因子の同定を目指し、NAH7のMpfDと相互作用する受容菌の膜タンパク質をプルダウンアッセイにより探索した。これまでに、P. putidaの膜タンパク質画分中に存在し、MpfDとの相互作用が期待されるタンパク質に由来するバンドをSDS-PAGEにて確認しており、今後質量分析による当該タンパク質の同定が期待される。
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