本年度は示差走査熱量測定や第一原理計算を用いて,正方晶FeAl2の常圧での相安定性について検討した. 示差走査熱量測定の結果,正方晶FeAl2は吸熱反応を伴ってFeAlとFe2Al5へ分解することが分かった.吸熱反応が見られる温度は,昇温速度20 K/minの場合は500 ℃付近だったが,昇温速度5 K/minの場合は470 ℃付近まで低下した.したがって,この分解反応は反応速度が律速となっていることが分かった.正確な分解温度を見積もるために,350 ℃および400 ℃で1週間熱処理を行った結果,400 ℃ではFeAl+Fe2Al5への分解が見られた一方,350 ℃では元の正方晶FeAl2を維持していたため,分解温度は400 ℃付近に存在することが示唆された.分解後のFeAl+Fe2Al5を用いて900 ℃まで示差熱分析を行った結果,明確な発熱吸熱ピークは見られなかったものの,測定後の試料は常圧でこれまで最安定構造だと考えられてきた三斜晶FeAl2に相転移した.この結果から,FeAl+Fe2Al5のエンタルピー差は極めて小さく,高温では三斜晶FeAl2の方が安定であることが示唆された.前述の正方晶FeAl2の吸熱反応による分解と合わせて考えると,高圧相だと思われていた正方晶FeAl2は,常圧においても低温では最安定であることが分かった.しかし,低温では原子拡散が極めて遅いため,これまで常圧で正方晶FeAl2は作製できなかったと考えられる.第一原理計算においても,同様に常圧0 Kでは正方晶FeAl2が最安定であるという結果が得られた.これらの結果から,何らかの方法で低温での原子拡散を促進することができれば,常圧においても正方晶FeAl2が作製可能であることが示唆された.
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