Metによるシグナル伝達機構の構造的原理の解明に向けて、Metの細胞外領域断片を多量に精製し、環状ペプチド(aMD4あるいはaMD5)との複合体結晶化することを計画していた。Metの細胞外領域はN末端からSema、PSIおよび4つのIPTドメインで構成されているが、環状ペプチドのMet結合部位は分かっていない。環状ペプチドの結合に関わらないドメインがないMet断片とペプチドの共結晶化を目指し、(1)Met細胞外領域をドメインごとに削った断片の調整および(2)ペプチドのおおまかな結合領域の探索の2点を行った。 (1)Met細胞外領域断片の調整では、断片のC末端に付加するタグの検討を行った。Met細胞外領域の断片にHisタグを付加すると、IPTドメインを複数欠損した断片の発現が激減する。そこでC末端にヒト抗体IgG1由来のFcドメインを付加した。Fcの改良を行った末、全てMet断片で発現量と安定性が向上した。Fcが付加されたMet断片はProtein A セファロースによって単離でき、ゲル濾過法を組み合わせ高純度に精製する手法を確立した。 (2)ペプチドの結合領域の探索では、ペプチドとの共結晶化に最適なMet断片を選ぶためにプルダウンアッセイ法によって結合実験をした。2種類のペプチドはMet細胞外領域全長や、C末端からIPTドメインを3つ削ったMet断片には結合できるが、すべてのIPTドメインを欠失した断片には結合できなかった。さらにSemaドメインも結合に必須であることも判明し、ペプチドとの共結晶化にはMet(Sema-PSI-IPT1)が必要最小の断片であること判断した。 Metのアゴニストとして働く2量体ペプチドはMetのN末端側に結合することで、Metを活性型の2量体構造へ構造変化させキナーゼ領域の活性化が起こすことを示唆した興味深い結果である。
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