研究課題/領域番号 |
18J12482
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今城 哉裕 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 超音波 / 細胞シート / 再生医療 / 細胞培養 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は超音波を用いた立体組織生成方法を確立することである.具体的には,超音波の伝播特性を用いて汎用的な培養容器の内部で細胞をマニピュレートすることで,細胞のパターニング,一部の細胞の除去,培養した細胞のシート状の剥離を行う.それぞれの目的を達成するために,至適な超音波を用いる必要があるため,これらの超音波を汎用培養容器に伝播するデバイスを製作した. 細胞パターニングの際は,振動エネルギーに空間的な分布を作ることが必要なため,薄板状の振動子に固有振動を励振して,その振動の分布を培養容器に伝播させる構造を構築した.この結果に関して,自身を筆頭著者とした原著論文を出版した. 一部の細胞の剥離に関しては,超音波振動子から照射される超音波を収束させるために,超音波ホーンを設計し,これを用いて,汎用的な培養ディッシュから一部の接着性細胞を剥離するデバイスを設計,製作した.この結果,接着性細胞(C2C12)を培養面の一部から剥離することを示した.除去された細胞の領域は半径0.1mm以下の円形であり,周囲の細胞の生存が確認されている.国際学会一件でこれを報告し,原著論文が一報査読中である. 細胞シートの剥離に関しては,C2C12をコンフルーエントに培養した汎用的な培養ディッシュとフラスコに対して,超音波を照射することで,細胞シートの剥離を確認した.さらに,剥離した細胞シートのグルコース代謝が既存の方法と比較して高いことを確認した.その一方で,細胞の形状やタンパク質の発現に異常がないことも確認した.以上の結果を,自身を筆頭著者とする原著論文を執筆し,投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,汎用的な培養ディッシュ内に超音波を伝播させることにより,細胞のパターニング,一部の細胞の剥離,培養した細胞のシート状の剥離を行うことで,高機能な立体組織の生成に資する培養技術を構築するものである.申請者は,自身で超音波の効率的な伝播機構を提案し,これを具現化した.これをもとに,上記の三つの課題に取り組み,それぞれの課題において論文を執筆している.現在までに限定された細胞(マウス由来筋芽細胞株C2C12)を用いた際の結果を示し,超音波を立体組織生成に用いる際の有効性を確認した.これ以降は細胞の共培養を行うなど,構築した超音波の照射方法を用いて,立体組織の構築を目指していく予定である. なお,本研究課題を達成するために海外研究者との共同研究を開始し,現地で研究活動を行い,その結果を申請者を筆頭著者とする原著論文として投稿予定である. 細胞シートの剥離に関しては,当初の予定と比較して若干の遅れが出ているものの,一部の細胞の除去はすでに方法を確立しているため,十分に当初のスケジュールで研究を完遂できると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,汎用的な培養ディッシュ内に超音波を伝播させることにより,細胞のパターニング,一部の細胞の剥離,培養した細胞のシート状の剥離を行い,高機能な立体組織の生成に資する培養技術を構築するものである.現時点で,申請者は限定的な細胞種を用いて超音波の有効性を示すことはできている.ただし,細胞パターニングに関しては,血管内皮細胞を用いたパターニングおよび共培養を行っていない.一部の細胞の除去に関しては,除去範囲が大きいことが問題である.なお,細胞シートの剥離に関しても細胞種が限定的である.そこで,細胞の汎用性を示すため,細胞種を変更して実験を行う.具体的に計画を述べる. 細胞パターニングに関しては,まず,血管内皮細胞を用いて細胞のパターニングを行い,マウス由来筋芽細胞株C2C12を用いた際と同様の結果を得られることを示す.次に,パターニングした血管内皮細胞の接着を確認した後に,間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)を播種して,共培養を行う. 続いて,共培養した細胞を細胞シートとして剥離する.この際,マウス由来筋芽細胞株C2C12と比較して,2つの点で困難が予測される.1つ目は,細胞をシート状に剥がすことが難しいと考えられる.2つ目は,超音波が細胞の機能に与える影響が懸念される.MSCは分化能を有するため,超音波を受けて分化する可能性がある.このため,剥離した細胞シートを3日培養した後に,未分化能を確認する細胞試験を行う予定である. 一部の細胞の除去に関しては,高周波のMHz帯の超音波振動を一点に集中して照射するFocus Surface Acoustic Wave Deviceと呼ばれるデバイスを用いて実験装置を再制作する.これより,さらに超音波の指向性が向上する. 最後に,剥離した細胞シートを積層し,立体組織を生成する.
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