研究実績の概要 |
Vector Boson Scattering (VBS)断面積のボソン対衝突エネルギー(Ecm)依存性は、電弱対称性の破れの機構によって顕著に変化する。新たな機構に伴う新粒子が直接探索で到達不可能なほど重い場合においても、散乱断面積に顕著な影響を示すことがあるため、その観測により数TeVを超える高エネルギー物理に言及することが可能である。新たな機構が存在した場合、標準模型で予言される断面積からの逸脱が最も顕著なのは、高いEcmを持つ散乱事象である。先行研究として、ATLAS実験におけるボソン対が全てレプトン崩壊する終状態を用いた解析がある。 本研究では、ATLAS実験において片方のボソンがハドロニック崩壊、もう片方がレプトニック崩壊する過程(セミレプトニック)をターゲットにした解析を構築し、既出の解析より高いEcmを持つ事象を解析した。 平成31年度は、前年度に構築した解析フレームワークを用い、系統誤差を精査し、2.7σの有意度でセミレプトニックVBSを観測した。 標準模型の予言に対する観測された反応断面積の比は1.05+-0.2(統計誤差)+0.37-0.34(系統誤差)であり、標準模型と無矛盾であった。本解析で用いた事象選択を考慮した断面積(fiducial cross-section)は45.1+-8.6(統計誤差)+15.9-14.6(系統誤差)と測定された。これらの結果は、セミレプトニック終状態を用いた解析の初構築であり、今後の標準模型の検証に重要な意義を持つ。これらの結果をまとめた論文は学術誌に掲載された(PRD 100, 032007)。
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