研究課題/領域番号 |
18J12565
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊太郎 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | Strophasterol / 全合成 / 亜鉛 / 双極子環化 / 立体選択的反応 / セレノヒドロキシ化 / 平衡 / 構造活性相関研究 |
研究実績の概要 |
今年度は主に、①strophasterol Cの合成の達成、②亜鉛を用いた新規変換法の開発、③セレノヒドロキシ化反応における平衡反応の発見、④strophasterol D及びglaucoposterol Aの中間体の合成の達成という4つの研究成果を上げた。 Strophasterol C, D及びglaucoposterol Aは、キノコの成長促進活性という非常に興味深い生物活性を有するstrophasterol Aの類縁体であり、天然からの単離量はいずれもごく微量である。そのため、詳細な生物学的研究は行われておらず、化学合成を達成したという報告も未だない。今回strophasterol Cの世界初の全合成に成功したことは、有機合成化学的に大きなインパクトとなっただけではなく、詳細な生物活性評価を行うための標品供給を可能にした。本成果によりstrophasterol Cの構造活性相関研究に大きく寄与することができた。また、strophasterol D及びglaucoposterol Aの中間体の合成が完了したことにより、次年度に両者を合成することがより容易になった。そのため、次年度には、現在発見されているstrophasterol類すべての天然物の合成を完了し、それぞれの構造活性相関研究を行うところまで研究を遂行できる見通しを立てることができた。 また今年度は2つの新規反応を発見することができた。亜鉛を用いた変換反応とセレノヒドロキシ化における新たな知見は、有機合成化学的に非常に有用なものであり、合成の幅を大きく広げることができた。両反応によりstrophasterol類の合成はより簡便なものになり、またこれらの反応は、strophasterol類以外の多種多様な化合物の合成に応用ができるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時、(a)strophasterol Aの大量供給に向けた合成法の改良,(b)strophasterol Bの立体選択的合成,(c)strophasterol C, D及びglaucoposterol Aの合成、(d)本化合物群をリードとする構造活性相関研究、という4つの目的を設定した。このうち、(a)と(b)は採用までの期間で達成し、今年度は(c)の達成に向けて研究に取り組んだ。(c)に関して、申請時は原料のergosterolからD環の開裂を行い、分子内でスルホンの求核付加を行いD’環を構築する計画を立てた。しかしながら、収率や立体選択性に問題が生じ、合成経路を変更することとした。 新たな合成経路を探索する過程で新規反応を発見した。Ergosterolから調整した中間体に対し、硫酸と亜鉛を作用させると、①ヒドロキシ基の脱離、②エノンの1,4-還元、③ケトンの還元、④脱水、が連続的に進行することを見出した。本変換反応は類例がなく、有機合成化学的に興味深い知見を得ることができた。 その後も合成経路を探索した結果、双極子付加環化反応を用いることでstrophasterol Cの立体化学を有する中間体と、strophasterol D及びglaucoposterol Aの立体化学を有する中間体を合成することができた。本反応における詳細な条件検討も行った。その結果、用いる試薬や溶媒が生成物の収率や立体選択性に大きく影響を与えることがわかった。 得られた中間体に対して官能基の導入を行い、strophasterol Cの世界初の全合成に成功した。これに加えて、合成途中で用いたセレノヒドロキシ化反応に関して、酸性条件で反応を行うと平衡が生じるという新たな知見を得ることができた。 以上の通り、新たな合成方法を確立し、目的としていた化合物の合成を終えたため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は①strophasterol D及びglaucoposterol Aの全合成の達成、②strophasterol類をリードとする構造活性相関研究に取り組んでいく予定である。 ①に関しては、今年度合成した中間体を用いて合成を進めていく予定である。今年度でStrophasterol Cの合成は達成しており、その際に確立した合成方法を用いることで両者の合成を達成できると考えている。両者はこれまでに合成報告がないため、これらの合成の達成は有機合成化学的に大きな意義がある。しかしながら現在のところ、strophasterol Cを合成した時よりも収率が低い反応があるため、各反応の改善を行いながら研究を進めていく。特に双極子環化反応の部分はまだ改善の余地があるため、収率及び立体選択性の向上を目指す。 ①が完了し次第、②の構造活性相関研究に取り組んでいく。本研究で着目している部分構造は、strophasterol類に特徴的なB環のエポキシドやアルコールといった酸素官能基と、これまでに類例のないD’環である。まずは合成したstrophasterol類のB環のエポキシド及びアルコール部分の官能基変換を行う。これにより、これらの構造が活性発現に必要なのかを調べる。その後、strophasterol類のABC環に相当する化合物の合成を行う。本化合物は既知化合物から数工程で変換可能であると考えてており、本化合物を利用することで、D'環に当たる部分を多種多様に変換できると考えている。この化合物の活性評価を行うことで他に類を見ない部分構造である、D’環の必要性、そして異なる構造にした時の活性の変化を調査する。これらの構造活性相関研究を行うことで、より構造簡略化した、短工程で合成可能な発茸剤の開発を目指す。
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