本研究は,視覚的気づきや注意機能のサブプロセスに道徳情報が与える影響を検討し,道徳判断のベースとなる無意識的な知覚・認知処理のメカニズムについて明らかにすることを目指してきた。2019年度は,2018年度に実施した実験の結果を踏まえつつ,引き続き道徳違反と関連した情報が視覚的気づきや視覚的注意に及ぼす影響を検証した。実験では,顔画像に道徳的価値を付与するために顔画像と文章を繰り返し対呈示する連合学習課題を用いた。2018年度までは,特定の顔画像に同じ文章を繰り返し対呈示していたが,2019年からは特定の顔画像に同じカテゴリ(道徳違反的,道徳遵守的,または中性的行為)であるが内容の異なる文章を繰り返し対呈示するように変更し,より強力に顔画像に道徳情報を付与する手法に切り替えた。視覚的気づきは,周辺視野に類似した特徴を持つ刺激が複数存在すると個々の刺激の特徴が識別できなくなるクラウディング現象 (crowding) ,画面上に高速かつ逐次的に視覚刺激を呈示する手法である高速逐次視覚呈示法 (Rapid Serial Visual Presentation; RSVP) 等を利用して操作した。一連の研究によって,視覚的アウェアネスが阻害されるクラウディング下においても人物の道徳性を検出できること,注意資源が剥奪されている状況下においても人物の道徳性が検出に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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