研究課題/領域番号 |
18J12584
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 真海 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 日本古代史 / 日本中世史 / 伝法阿闍梨 / 東寺 / 真言宗 / 東寺百合文書 / 顕密仏教 |
研究実績の概要 |
(1)密教の師範僧である伝法阿闍梨が国家的管理下に生産されたことに着目し、その性格変容過程を分析した。その結果、性格変容の画期が十世紀末になると論じた先行研究に対し、その背後に存在した九世紀末~十世紀初頭における画期を浮き彫りにすることが出来た。この論点は、国家が密教僧団を如何にして統合していたか、という点に関する従来の基本概念に再考を促し得るものであり、重要な成果であると考えられる。本研究の成果の一部は、日本史研究会古代史部会において口頭報告を行っており、当日の討議とその後の分析を踏まえた論考が次年度以降『日本史研究』に掲載されることが決定した。 (2)東寺を中心とする真言宗寺院群の統合過程について分析し、日本宗教史懇話会サマーセミナーにて口頭報告を行った。ここでは、東寺百合文書等にみえる「請定」(法会出仕要請の回覧状)の変遷を追いかけることで、真言宗寺院群の統合時期を九世紀ないし十世紀初頭に推定する従来の理解に対し、実際の統合時期が十一世紀初頭になる可能性を論じた。この作業を通じて、平安前中期の東寺の歴史的位置と、そこで行われた密教法会が果たした国制史的機能を明確にすることが出来た。なお、本研究の遂行に際しては、紙焼史料の入手(東寺観智院金剛蔵聖教等)や写本の調査(日本大学図書館・天理大学附属天理図書館等)に努め、研究の基礎となる正確なテキストの復元を図った。とりわけ、仏教関係の法令を集成した『類聚三代格』巻二については、奈良で行われた類聚三代格研究会にて、当該巻次に関する研究報告を行い、貴重な意見交換を行うことが出来た。 (3)日本古代から中世にかけての顕教法会に関する政策について、東アジア諸国との比較を念頭に置き、史料収集を進めていった。これと併せて隣接諸分野の研究者の参加する『続高僧伝』の研究会に継続的に参加し、東アジア仏教史に関する最新の研究動向を捕捉した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本古代から中世にかけての伝法阿闍梨の性格変容の過程と、それに関する国家の仏教政策の変遷を考察した論考を投稿し、掲載決定に至った点は、重要な成果であったと評価出来る。また、平安前中期の東寺について、とりわけその国制史的位置という観点から、具体的な史料に即して検討出来た点についても、おおむね順調な進度にあるといえる。この点については、本年度の研究成果を土台にすることで、次年度以降更に包括的な議論へと発展させることが出来るものと展望される。一方、上記の密教に関する研究の比較対象となり得る顕教僧や顕教法会に関する研究、また東アジア諸国との比較研究については、未だ史料収集の段階にあり、次年度以降の課題となった。ただし、前者については、本年度中に写本の調査等の基礎作業を実施し、後者については、大学内外の研究会に継続的に参加し最新の研究動向の入手に努めたため、次年度以降の基盤となる作業を進めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
(1)日本古代から中世にかけての顕教法会に関する政策とそれによって形成された僧侶集団の様態について、東アジア諸国との比較を念頭に置きながら分析を進める。その際、本年度に実施した密教僧や密教法会に関する分析を踏まえることで、顕密相互の異同を明確にする。また、本年度に実施した予備調査において、上記の研究に活用する史料の中には、刊本としての確度に不安が残るものも含まれることが判明した。したがって、東京大学史料編纂所等において資料調査を実施し、テキストの精度の確保に努める。その上に立って、上記の作業を進めていく。 (2)本年度の研究成果のなかには、未だ論文として公表し得ていないものが残っている。それらの内容は上記の論考と連関するものでもあるため、早急な公表に努めたい。
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