当該年度の研究成果は以下2本の論文にまとめた。 1本は『新しい歴史学のために』296号(2020年5月刊行予定)に掲載予定の論文「社会科教育と戦後知識人――日高六郎の「社会科学科」をめぐる実践」である。本稿は日高六郎が担った学校教育をめぐる啓蒙のなかでとくに社会科教育に焦点をあて、その具体的な内容を明らかにしたものである。①日高が執筆した小・中・高向けの各種社会科教科書、②1950年代後半における教科書パージをめぐる総合雑誌・教育専門誌・新聞各紙等における議論、③日高が編集・執筆に関わった社会科教育に関する講座本や叢書、等の史料を検討することにより、日高の実践を系統的に明らかにし、併せて先行研究ではあまり注目されてこなかった家永教科書裁判以前の社会科教科書問題や知識人による社会科教育論議を捉えなおす問題提起を行った。 もう1本は、共著本に所収予定の論考「日高六郎の学校教育をめぐる思想と運動」(『戦中・戦後の経験と戦後思想 1930-1960年代(仮題)』現代史料出版、2020年8月刊行予定)である。本稿は学校教育全般をめぐる日高の思想、および日教組の教育研究活動や組合活動への日高の関与を具体的に明らかにしたものである。①『思想』等の総合雑誌、『教育評論』(日教組の機関誌)等の教育専門誌、②『日高六郎教育論集』所収の論考、③その他の座談・対談記録等、の史料を用い、日高個人のみならず竹内好、加藤周一、安田武等の知識人が教育をめぐってどのような発言や実践を行ったかも明らかにし、また日教組の教育運動や生活綴方等の教育実践についても論じた。知識人による戦後啓蒙の構成要素として学校教育が重要であったことを問題提起する論考となった。 両論文はともに、「戦後民主主義」の具体的諸相に迫った成果である。知識人が学校教育を民主主義の内実化のための鍵と捉え、様々な実践を行ったことを明らにした。
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