研究課題/領域番号 |
18J12652
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
臼田 初穂 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | リン脂質 / ベシクル / 脂質ナノディスク / 示差走査熱量測定 / 小角X線散乱 / ポリマー / 過熱 / アルカン |
研究実績の概要 |
本研究では、リン脂質膜ベシクルを端のない二次元固体とみなして,固体の融解時に液核の均一核生成に伴う過熱を初めて実験的に観測し、その過熱限界の起源を明らかにすることを目的として実験を行ってきた.昨年度までの研究によりリン脂質膜ベシクルに過熱が起きている可能性を確認していた。過熱と膜の曲げ弾性との関係を調べるために、脂質膜のダイナミクスを中性子スピンエコーにより観測した。また、示差走査熱量測定で観測される熱異常のシフトが、熱遅れではなく過熱であるかどうかを明らかにするために低速昇温によってより詳細しくリン脂質膜ベシクルの熱測定を行う予定だった。しかし、X線散乱実験により、加熱・冷却サイクルを経る中でリン脂質膜ベシクルの構造が大きく変化している様子が観測された。そこで、研究代表者はまず脂質膜ベシクルに様々な両親媒性直鎖分子を添加し、形状の安定化を試みた。形状は安定しなかったが、この実験により明らかとなった両親媒性直鎖分子がリン脂質膜ベシクルの構造と相挙動にもたらす影響を論文にまとめ発表した。次に、新たな過熱観測対象として、同じくリン脂質で構成される脂質ナノディスクに注目した。脂質ナノディスクは脂質二重膜の小片で、疎水部分が両親媒性ポリマーに覆われている。脂質ナノディスクの相転移温度は多くの場合、通常のベシクルのものより低くなるが、用いるポリマーの種類によっては高くなることが報告されている。研究代表者はこの脂質ナノディスクに関する実験方法を習得するために、ドイツのカイザースラウテルン工科大学の研究室で研究を行った。ナノディスクの作製を習得する過程で行った実験において、脂質ナノディスクを用いて生体膜から抽出されたイオンチャネルを脂質平面膜に戻しても、イオンチャネルとして機能することを観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予期していないことが起きたのが主な理由である。昨年度までの研究によりリン脂質膜ベシクルは加熱時に過熱が起きていると捉えていたが、今年度の研究により、示差走査熱量測定における熱異常のシフトがベシクルの構造変化による可能性が高いことがわかった。そこで、より良い条件を探したり、新たな実験対象を設定したりしたため当初の予定よりやや遅れている。しかし、そのような中でも、より良い条件を探す過程で得た実験結果を論にまとめ出版することができた。また、脂質膜ベシクルのこだわらずに他の系での観測をするための研究においても、脂質ナノディスクの作製を習得する過程で、生物学的に重要な現象を観測することが出来た。この結果は論文にまとめられ出版される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究先で習得した脂質ナノディスクの作製を所属研究室でも行う。作製した脂質ナノディスクでは加熱時に過熱が起きるかどうかを示差走査熱量測定により確かめる。過熱が確認されたら、固体相と液体相の境界にはたらく線張力に相当する活性化エネルギーを過熱度から求めるモデルを構築する。相転移のキネティクス解析法として既にOzawa法などが提唱されているが、端のない二次元固体とみなした脂質膜ベシクルに直接あてはめられるわけではない。PC脂質、PS脂質で疎水鎖の鎖長を変えて過熱挙動の変化を測定する。疎水鎖の鎖長は界面張力の大きさに直結すると考えられるので、鎖長の伸長に伴って過熱度は大きくなり、そこから求められる活性化エネルギーも大きくなることを確かめる。
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