研究課題/領域番号 |
18J12708
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安齋 樹 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質ミスフォールディング / 筋萎縮性側索硬化症 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、重篤な筋萎縮や運動障害を引き起こす神経変性疾患で、未だ有効な治療法は確立していない。一部のALS患者では、病変部位である脊髄運動ニューロンに、構造が異常となった(ミスフォールドした)SOD1タンパク質が異常に蓄積していることが報告されている。しかし、ALSの病態が進行する際に、どのようにSOD1がミスフォールドしてALSの病態に関与するのかについては明らかでない。そこで本研究では、ALS患者の脊髄において、酸化ストレスの上昇が報告されていることに着目し、酸化ストレスに伴うSOD1のミスフォールディングメカニズムの解明に取り組んだ。 まず、活性酸素の一種である過酸化水素を添加すると、SOD1が不溶性の凝集体を形成することを確認した。SOD1が、過酸化水素によって酸化的に修飾されることで、凝集体形成が進行するのではないかと考え、質量分析による解析を行った。その結果、タンパク質表面に露出したシステイン残基が、過酸化水素によってスルフェニル化された後、SOD1分子内で新たなS-S結合が形成していることが分かった。また、SOD1は通常、強固な二量体として存在しているが、新たな分子内S-S結合の形成によって、SOD1が容易に単量体化し、ミスフォールドすることを見出した。さらに、分子内S-S結合を形成したミスフォールド型SOD1は、運動ニューロン様の培養細胞に対して毒性を発揮することも明らかとなった。つまり、酸化ストレスの上昇に伴って、SOD1に分子内S-S結合が導入され、細胞毒性を有するミスフォールド体を形成することで、ALS病態の進行に関与することが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、神経変性疾患の病態進行に関与するタンパク質のミスフォールディングメカニズムを明らかにすることを目的としている。研究実績の概要でも述べたように、ALS患者にみられるような酸化ストレス条件下で進行する、SOD1の新たなミスフォールディング経路を見出すことができた。さらに、同定したミスフォールド型SOD1が細胞毒性を発揮することも確認できたことから、本計画は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに同定した、酸化ストレスにより形成するミスフォールド型SOD1の構造・物性について、より詳細な検討を進める。具体的には、X線結晶構造解析とX線小角散乱による解析に取り組み、分光学的・生化学的手法による解析結果と併せて、ミスフォールド型SOD1の構造を明らかにする。その結果をもとに、細胞毒性を発揮する要因となる、ミスフォールド型SOD1の構造的特徴について議論する。
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