銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)は、銅・亜鉛イオンを結合する金属タンパク質で、反応性の高い活性酸素であるスーパーオキシドを過酸化水素と酸素分子に変換する重要な酵素である。一方、SOD1のミスフォールディングは、一部の筋萎縮性側索硬化症(ALS)にみられる病理学的変化で、ミスフォールドしたSOD1がALSの発症に関与することが提案されているものの、その詳細は明らかでない。そこで本研究では、ALS患者の病変部位である脊髄において、酸化ストレスを示すマーカーの値が非常に高く、様々な生体分子が酸化されやすい状況にあることに着目した。特に、SOD1が産生する過酸化水素は酸化剤として機能することから、SOD1は酸化されることでミスフォールドするのではないかと考えた。 SOD1は4つのシステインを有しており、そのうち2つ(Cys57とCys146)は分子内ジスルフィド(S-S)結合を形成している。残り2つ(Cys6とCys111)は還元したチオール(-SH)として存在するが、SOD1が産生する過酸化水素によってCys111が選択的にスルフェン酸(-SOH)へと酸化されることが分かった。さらに、結合していた銅・亜鉛イオンが解離すると、タンパク質構造が大きく揺らぎ、通常は離れた位置にあるCys6がCys111のスルフェン酸を攻撃して、Cys6とCys111の間でS-S結合を形成した。つまり、酸化ストレスの増大と銅・亜鉛イオンの解離によって、2つのS-S結合を持った異常なSOD1(SOD1^2SS)が形成することを見出した。さらに、このSOD1^2SSは、凝集して不溶性の沈殿になりやすく、運動ニューロン様の培養細胞であるNSC-34に添加すると毒性を示すことから、SOD1^2SSがALSの発症に関与する可能性が考えられた。
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