研究課題/領域番号 |
18J12727
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅原 悠馬 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 光赤外線天文学 / 観測天文学 / 銀河天文学 / 銀河形成 / 銀河進化 |
研究実績の概要 |
星形成銀河のアウトフローは、星形成を抑制して銀河進化を制御すると考えられている。アウトフローと銀河進化の複雑な関係を理解するためには、そのふるまいを観測から明らかにする必要がある。 アウトフローを特徴づける星形成銀河の複数の物理量を重回帰分析により探った。赤方偏移z=0における大規模な分光データサンプルSloan Digital Sky Surveyを使って、10万個に及ぶ星形成銀河のサンプルを構築した。銀河の物理量(星質量・星形成率・サイズなど)ごとにスペクトルを合成して計1000個以上の合成スペクトルを作成し、吸収線から求まるアウトフロー速度に対して銀河の物理量を説明変数として重回帰分析を行った。アウトフロー速度を特徴づけるパラメータへの示唆が得られた。本研究の結果を、国際研究会と、天文学会を含む国内研究会で報告した。 次に、z=5-6のアウトフローの描像を世界に先駆けて明らかにした。静止波長で遠紫外線域のスペクトルと、ALMAによる[CII]158um輝線観測データが共に存在する、赤方偏移z=5-6の星形成銀河のサンプルを構築した。[CII]輝線で決定された銀河全体の赤方偏移を基準にして、7個の遠紫外線スペクトルを足し合わせ、アウトフロー速度を算出した。これらを我々が2017年に調べたz=0-2の銀河のアウトフロー速度と比較したところ、似た星質量を持つ銀河のアウトフロー速度は0から2まで急激に増加し、z=2から6までは有意に増加しなかった。また、アウトフロー速度は銀河のハローの回転速度と、赤方偏移によらず良い相関があることを示し、ダークマターにより作られたハロー構造が銀河進化を制御する描像が示唆された。本研究を二つの国際研究会と、天文学会を含む国内研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、今年度はz=0におけるアウトフローの重回帰分析を終える予定であったが、(1)予想よりも解析手法の改善に時間がかかることが分かったこと、(2)次年度計画していたz=5-6のアウトフロー研究はアーカイブデータを利用して直ちに開始した方が良いこと、の二つの理由からz=5-6のアウトフロー研究を先に実施した。こちらの研究は順調に解析が終了し、現在は結果をまとめて論文を執筆中である。研究順序に変更が生じたものの、研究計画を総合的に判断すると、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
z=0におけるアウトフロー研究を進める。まずは吸収線解析の手法を改善し、過去の研究結果と照らし合わせながら、得られたアウトフロー速度の妥当性を判断する。z=0においてアウトフロー速度を特徴づける銀河の複数の物理量を得たあと、文献のアウトフロー観測結果や解析的モデルと照らし合わせ、アウトフロー速度の統一的な描像を得る。さらに、この描像が赤方偏移進化した場合を考察し、先に得られたz=0-6の観測結果を再解釈しなおす。 一方、近年のすばる望遠鏡の広視野探査により、珍しい爆発的星形成銀河が発見されている。これらの銀河から、インフローに対する制限が与えられる可能性がある。アウトフローとインフローに代表される銀河周囲のガス循環に光を当てることで、その中で進化する銀河の様子を明らかにすることを目指す。
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