令和元年度は昨年度に引き続き、密度揺らぎが生成する重力波に注目して研究を進めた。
まず、ビッグバン元素合成が起きるよりも前の宇宙において(初期)物質優勢期が存在する場合に、どのような(密度揺らぎが生成する)重力波のスペクトルが予言されるのかを調べた。初期物質優勢期が重力波へ与える影響に関する先行研究では、初期物質優勢期がどのようにして放射優勢期に遷移するのかを十分に考慮していなかったが、本研究ではそれを注意深く考慮した。結果として、生成する重力波の量は、遷移がゆっくりと起きる場合は先行研究よりも少なく、遷移が素早く起きる場合は先行研究よりも多くなるということが明らかになった。特に、素早い遷移による重力波の増大機構は、その後の論文でポルターガイスト機構と名付けた。なお、この研究に関する論文はすでに雑誌に掲載されている。
その後、遷移が素早く起きる具体例として、原始ブラックホールが宇宙の主要な成分になるような時期が存在するシナリオについて調べた。原始ブラックホールは、非相対論的粒子として振る舞うため、初期に原始ブラックホールが宇宙の主要な成分になる時期は初期物質優勢期とみなせる。特に私は、その原始ブラックホールが蒸発して、初期物質優勢期から放射優勢期へ遷移するようなシナリオを考えた。ブラックホールの蒸発率は質量が軽くなるほど高くなるので、初期物質優勢期から放射優勢期への遷移は素早く起こる。そのため、このシナリオではポルターガイスト機構を通して大きな重力波を生成しうる。私は共同研究者と共にこの事実を初めて明らかにした。この研究に関する論文は、現在、雑誌に投稿中である。
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