研究課題/領域番号 |
18J12748
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
樋口 裕美子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 植物ー昆虫相互作用 / 葉形 / ヤマハッカ属 / オトシブミ / 抵抗性 / 行動 |
研究実績の概要 |
植物の葉は多様な形を示すが、自然界でどのように作用しているか明らかでない。また、非生物的環境要因との関連から主に検討されており、被食などの生物的要因に対する機能はあまり知られない。本研究では、シソ科ヤマハッカ属の1種イヌヤマハッカ変種群にみられる葉形の地理的変異とこの属を利用する植食性甲虫ムツモンオトシブミ(以下ムツモン)の産卵時の葉巻行動との関係を調べている。オトシブミ科のメスは産卵の際に葉を巻き上げ、子供のための「揺籃」と呼ばれる葉巻きを作成する。揺籃形成は複雑な加工行動をメスに課すため、葉形によって加工行動が阻害されるかもしれない。 本年度は、イヌヤマハッカの1変種ハクサンカメバヒキオコシ(以下ハクサン)の葉に見られる顕著な切れ込みがムツモンの葉巻行動を阻害するのか、同属で同所的に生育し葉に切れ込みのない別種クロバナヒキオコシ(以下クロバナ)と比較することで検証した。野外調査と室内選択実験から、メスはクロバナに比べハクサンを揺籃基質として好まないことがわかった。一方、ムツモンの卵を両植物種の新葉で巻きなおしても、幼虫の羽化率や羽化成虫のパフォーマンスは変わらなかった。クロバナにハクサンの葉を模倣した切れ込みを入れても、メスの揺籃形成は妨げられた。揺籃形成時の行動観察から、メスはハクサンでは初期段階の踏査行動をうまく完了できず、そのため多くの葉は傷つけられる前にムツモンによる被害から逃れていた。 以上により、ハクサンの葉の切れ込みがムツモンの揺籃形成を妨げていることが示唆された。これまで寄主植物を探索する蝶や葉を丸ごと食べるような大型哺乳類を除き、葉形が植食者の忌避に働くと考えられることは少なかったが、葉を加工する昆虫において葉形が物理的抵抗性として作用する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
比較や取り扱いのしやすさから、計画で想定していた実験対象種であるイヌヤマハッカの1変種で葉に切れ込みのないコウシンヤマハッカの代わりに同所的に生育する別種クロバナヒキオコシを用いた点は異なるが、当初の目的としていた野外調査や室内選択実験、行動観察が計画通り進行した。また、それに関する成果を学会で2回発表し、論文化して国際誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
ムツモンオトシブミの切れ込み葉における踏査行動をより詳細に観察し、切れ込み葉の踏査阻害メカニズムを明らかにする。また、他のイヌヤマハッカ変種群における加工行動や揺籃形成における嗜好性を明らかにし、葉形の地理的変異との関連性を探る。
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