葉の形が生物間相互作用においてどのように作用しているか明らかにするため、シソ科ヤマハッカ属の葉の形が、産卵の際に葉を複雑に加工する植食性昆虫ムツモンオトシブミの寄主利用に与える影響を調べた。昨年度の研究から、ムツモンオトシブミに対し、ヤマハッカ属の1種ハクサンカメバヒキオコシ(以下ハクサン)の切れ込んだ葉形がメスによる葉の加工を阻害することがわかった。そこで、本年度は葉形による抵抗性機構の詳細とその進化的背景についての知見を得ることを試みた。 まず、メスの加工行動のどの段階で切れ込んだ葉形が忌避されるのか、昨年度に引き続き葉に切れ込みのない同属のクロバナヒキオコシ(以下クロバナ)での加工行動と比較して検討した。メスはどちらの種でも同様に踏査を行ったが、葉の裁断に至る個体の割合はハクサンで低くなった。また、切れ込みを埋める処理をしたハクサンの葉では踏査した全てのメスが葉の裁断に至った。以上より、切れ込んだハクサンの葉形は主に踏査成功率を下げることにより揺籃作成を妨げていることが定量的に確認できた。 次に、ハクサンとクロバナが同所的に生育する複数群落において、両種の揺籃による葉の損失量と地上部の成長特性を比較した。揺籃による葉損失量はハクサンよりクロバナで大きかったが、他の昆虫による総摂食量と比べると少なかった。クロバナはハクサンよりも高い地上部の成長量を示し、揺籃の有無は次月以降のクロバナの葉数に負の影響を及ぼさなかった。以上より、揺籃形成がクロバナの生育に与える影響は限定的であると考えられた。ハクサンの切れ込んだ葉形がオトシブミに対する防衛として進化してきたかは不明だが、クロバナでは高い成長特性が揺籃による葉損失を軽減している一方、成長量の小さいハクサンでは、葉に切れ込みがなければ揺籃による葉損失による影響はクロバナより大きいかもしれない。
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