研究課題/領域番号 |
18J12791
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
甚野 裕明 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 有機フォトダイオード / 有機インバータ / イメージセンサ |
研究実績の概要 |
本年度は、まず有機フォトダイオード単体素子の作製・評価を行った。有機フォトダイオードの活性層としては、p型半導体として良好な特性を示すPNTz4Tを、n型半導体としてPC71BMを用いた。カソードとしてZnOをゾルゲル法にて成膜し、さらにアノードとしてMoOXとAgを真空蒸着を用いて成膜した。 さらに作製したフォトダイオードに対し、緑色レーザーを異なる光学密度を持つフィルタを通して照射し、光量依存性を測定した。フォトダイオードは光量に対する線形性が重要である。そこで測定したフォトダイオードの光量依存性に累乗フィッティングを行った。その結果、乗数は1.00となり、作製したフォトダイオードが良好な線形性を持つことがわかった。また、フォトダイオードの重要な基礎特性の一つである電流応答性は、0.24 A/Wと計算され、作製したフォトダイオードが先行研究で報告されている有機フォトダイオードと遜色ない応答性を示すことがわかった。 続いて、作製した有機フォトダイオードを有機トランジスタによるインバータと集積化し、増幅器内蔵型イメージャの動作実証を行った。インバータとして本研究では、しきい値電圧を制御可能なダブルゲート構造を持つインバータを用いた。フォトダイオードとインバータを繋げたデバイスは、10-6~10-5 Wの入射光量で出力電圧が大きく変化しており、インバータによるフォトダイオード電圧の増幅効果を確認することができた。さらにインバータを組み合わせた素子の電圧応答性は1.49 V/Wと計算され、元々フォトダイオードが持っていた電圧応答性の値を69倍へ増幅できた。 これらの結果から、フォトダイオードとインバータの集積化により増幅器内蔵型イメージャの実現が示された。次年度では、作製したデバイスを超フレキシブル基板へ作製し、超フレキシブルな増幅器内蔵型イメージャを作製する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ガラス基板上にてフォトダイオードを作製・インバータと繋げることで、増幅器内蔵型のイメージャ回路を作製した。単体のフォトダイオードは、計画していたPTB7-Thではなく、PNTz4Tというp型ポリマーを用いて作製を行った。作製したフォトダイオードは電流応答性0.24 A/Wという値を示し、先行研究の有機フォトダイオードと遜色ない特性のダイオード作製に成功した。さらに、ダブルゲートインバータという有機トランジスタ2個を用いた回路と繋げることで、元々フォトダイオードが持っていた電圧応答性の値を69倍増幅した1.49 V/Wという高い電圧応答性を示した。ダブルゲートインバータは、インバータのしきい値電圧を自由に調整できる。そのため、自己バイアス型増幅回路の構造を取らずに任意の光量を増幅することが可能である。その結果、トランジスタ2個とフォトダイオード1個という非常に少ない素子数で増幅器内蔵型ピクセル回路を実現できた。 一方、現在の素子はフォトダイオードとダブルゲートインバータを別々の基板に作製している。そのため、フォトダイオードとインバータを一つの回路に集積化したデバイスは未だ作製できていない。次年度は、2素子を集積化したデバイスのデザインを行い、その作製を行う予定である。 これらの結果から本年度は、当初計画とは異なる素子・材料を用いている一方、計画していたデバイス特性を満たす良好な増幅率のピクセル回路を作製できた。そのため、本申請の計画は概ね順調に進歩していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度にて作製した増幅器内蔵型ピクセル回路を超フレキシブル基板へ作製する予定である。まず、単体の有機フォトダイオードを超フレキシブル基板上へ作製する。その単体特性を確認した後に、超フレキシブル基板上へ作製した有機ダブルゲートインバータと繋げることで回路動作を確認する。単体を繋げることで回路動作を確認し、最後に1基板へ2素子を集積化したデザインにて超フレキシブル基板上へデバイスの作製を行う。 超フレキシブル基板上のデバイス作製が実現された後は、大きく2種類のデモンストレーションを検討している。 1つ目は手の静脈形状の測定である。静脈測定の実験においては、光源として赤外光レーザーを用いる予定である。そのため、有機フォトダイオード単体素子の赤外光特性を測定し、作製したフォトダイオードの赤外光応答性を評価する。その後、赤外光レーザを皮膚に照射し、皮膚透過光によるフォトダイオードの光電流を測定する。静脈部分の吸光は他の部分と比べ高いため、静脈の有無によって光電流の値が変わり、静脈形状の測定が可能である。 2つ目は、有機イメージャによる血管の脈波測定である。静脈測定は赤外光を用いるためデバイスが赤外光への応答性が低く、測定が困難である可能性がある。静脈測定が困難であった場合は、可視光を用いて測定が可能な脈波を測定する予定である。可視光は肌表面に照射することで、光は血管まで透過し、反射光が肌表面に返ってくる。反射光は血管の脈動に応じて光量を変化させるため、肌表面のフォトダイオードによって反射光を測定することで、血管の脈波を検知することができる。 これら2種類のうちどちらかのデモンストレーションを行うことで、我々の作製した超フレキシブルな増幅器内蔵型フォトダイオードが肌貼り付け型のイメージング素子に有望であることを示す予定である。
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