研究課題/領域番号 |
18J12795
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河合 慶 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | アジアダスト / 黄砂 / ダストストーム / 砂塵嵐 / モンゴル / ゴビ砂漠 / ライダー / シーロメーター |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、モンゴルのライダーネットワーク(5地点)を用いて、ゴビ砂漠におけるダストストームの動態とそのメカニズムを解明することである。研究計画に従って、2018年度は以下のような現地観測やデータ解析を実施した。 1)春季集中観測(IOP2018)の実施:ダスト(黄砂)の発生シーズンである春季にモンゴルのゴビ砂漠を訪れ、大気中のダスト濃度に関する現地観測や小型ダスト濃度計の設置(以下の3)を行った。また、長年観測を実施している現地気象台では、これまでの観測成果について発表し、意見交換を行った。 2)夏季集中観測(IOP2018夏)の実施:ダストの発生しない夏季に再度ゴビ砂漠を訪れ、バックグラウンドの大気環境状態について現地観測を行った。また、現地気象台に設置してあるシーロメーター(小型ライダー;レーザー光を用いてダストや雲の鉛直分布を観測する能動型のリモートセンシング装置)の観測精度を検証・改良するために、水平観測実験も実施した。 3)小型ダスト濃度計の製作・試験観測:ゴビ砂漠の多地点でダスト濃度を測定するために、小型で安価なダスト濃度計の製作を行っている。今年度は2種類のプロトタイプをゴビ砂漠の3地点に設置し、試験観測を開始した。 4)2015年4月29~30日に発生したダストストームの事例解析:ゴビ砂漠のシーロメーターや地上・高層気象観測データを用いて、本事例のダストストームの動態について解析を行った。本事例の特徴は、低気圧の北~北西域の強風によってゴビ砂漠でダストストームが発生したのち、ダストが上空の逆転層(高度1.2~1.5 km)にトラップされたことである。このダストは逆転層より上空で吹いている偏西風の高度まで到達することができず、日本などへ長距離輸送されなかったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の1~4の研究内容に関する進捗状況を以下に示す。関連した研究内容も含め、査読付き国際誌に論文が3件(すべて国際共著)掲載され、国際学会で2件、国内の学会で13件の発表を行った。 1)春季集中観測(IOP2018)の実施:前年度以前の現地観測結果と合わせて、ダスト発生と気象条件・地表面状態などの関係について解析を行った。この解析結果やこれまでのシーロメーターの観測結果などについて、国内の学会で発表を行った。 2)夏季集中観測(IOP2018夏)の実施:シーロメーターの水平観測実験に関するデータ解析を行った。国立環境研究所のライダーグループと解析結果を吟味し、実験方法の改良すべき点を検討した。本実験について国内の学会で発表を行った。 3)小型ダスト濃度計の製作・試験観測:ダストシーズンである約1ヶ月間の観測データを収集・解析し、シーロメーターの観測データとの比較も行った。本期間中、ダストストームを5回ほど観測できたが、それ以降はセンサー内部にダストが付着したためか、平常時も常に高い値を示した。この解析結果を基に小型ダスト濃度計の改良を行い、新たなプロトタイプの試験観測を開始した。これらの解析結果について国内の学会で発表を行った。 4)2015年4月29~30日に発生したダストストームの事例解析:上述の解析内容に加え、これまでに解析を行ってきた他の事例(2013年5月や2017年5月の事例など)との比較も行った。これらの研究成果について、国内外の学会で発表を行い、査読付き国際誌に論文が掲載された(Kawai et al., 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も引き続き、ゴビ砂漠での現地観測やダストストームの3次元動態解析を行う。 A)春季集中観測(IOP2019)の実施:ダスト発生シーズンの春季にモンゴルのゴビ砂漠を訪れ、現地観測や小型ダスト濃度計のデータ収集・メンテナンスなどを行う。また、IOP2018夏で実施したシーロメーターの水平観測実験を再度実施し、シーロメーターの観測精度をより正確に検証・改良することを目指す。 B)シーロメーター水平観測実験のデータ解析:これまでに実施した実験データの解析を行い、シーロメーターの観測精度の検証・改良を行う。解析結果がまとまり次第、論文にまとめ、査読付き国際誌に投稿する。 C)小型ダスト濃度計の検証・改良:前年度からゴビ砂漠で実施している試験観測の結果を解析し、同時観測を行っている高精度なダスト濃度計(鳥取大学乾燥地研究センターが設置しているTSI製のDustTrakなど)と比較・検証を行う。これらの解析結果を基に、現在使用しているプロトタイプの課題点を明らかにし、小型ダスト濃度計をさらに改良する。 D)ダストストームの総解析・体系化:2013年から蓄積されているシーロメーターの観測データを春季(3~5月)に焦点を当てて解析し、全てのダストストームを抽出する。これまで知られていなかった特徴的な事例が見つかった場合には、その事例を集中的に解析し、これまでの事例解析との比較を行うとともに、早急に論文にまとめ、査読付き国際誌に投稿する。2013年からの全てのダストストームの発生・発達メカニズムなどを解析し、分類・体系化を目指す。
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