研究課題/領域番号 |
18J12852
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田財 里奈 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導機構の解明 |
研究実績の概要 |
本年度は、CeCu2Si2の超伝導発現機構についての研究を遂行した。本研究の成果は、日本物理学会(9月秋季大会・3月年次大会)やアメリカ物理学会(APS march meeting 2019)、M2s Conference in 北京で発表を行うと同時に、Phys. Rev. B誌で出版され、Editors’ Suggestionsにも選定された。その後の続報論文として、J. Phys. Soc. Jpn. Letterに投稿も終え、精力的に研究を行ってきた。以下に本研究で得られた成果のの具体的な内容を示す。CeCu2Si2は、重い電子系で発見された初めての超伝導体である。超伝導相は反強磁性相近傍に存在する為、強いスピン揺らぎを起源とするd波超伝導相であると考えられてきた。ところが最近、比熱や磁場侵入長、電子線照射の実験からノードを持たず符号反転も無いs波超伝導であることが示された。この実験事実は従来の理論では全く説明できない。解明には、新しい超伝導微視的発現機構の理論を構築する必要がある。
従来の微視的な超伝導理論として、電子・ボソン結合定数を裸の相互作用で近似するMigdal – Elia shberg (ME) 近似が広く用いられてきた。一方、最近の鉄系や銅酸化物超伝導の研究を通して、ME近似が破たんする実例が多く見つかり、ME近似を超えた高次の多体効果の重要性が明らかになってきた。 高次の多体効果は、クーロン斥力Uに対するバーテックス補正(VC)として記述される。以後U-VCと呼ぶ。U-VCはd電子系に限らずf電子系においても重要であることが期待される。本研究では、U-VCを考慮した超伝導理論を構築し、CeCu2Si2のs波超伝導発現機構を研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度に、重い電子系の超伝導発現機構と多極子秩序の発現機構について基礎的で重要な研究を行った。CeCu2Si2は重い電子系を代表する超伝導体であるが、反強磁性相近傍にもかかわらずBSC的なフルギャップS波超伝導体であることが近年明らかになり、その微視的起源に注目が集まっている。その説明のため、この系の強いスピン軌道相互作用(SOI)を考慮した4重項周期アンダーソン模型を構築した。次いで、電子・ボソン結合定数に対するバーテックス補正(U-VC)を考慮した超伝導ギャップ方程式を解析した。その結果、電子格子相互作用に由来する小さな引力相互作用が、U-VCによって増大することを見出した。U-VCCは反強磁性相近傍で著しく増大するため、フルギャップS波超伝導が実現することが分かった。この結果を15ページの論文にまとめ、Phys. Rev. B誌に掲載され、Editors’ Suggestionsに選定された。その後も研究を進めて続報の論文をまとめた。以上のように、2018年度に大変卓越した研究業績を上げた
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今後の研究の推進方策 |
後の研究としては、CeB6やURu2Si2の研究を行う予定である。これらの物質では、低温でスピンと軌道の自由度が絡み合った多極子秩序相が発現する。更にURu2Si2は,多極子秩序下で超伝導相を示す。秩序相の起源は、強いSOIに加えf電子間の強い電子相関にあると考えられている。しかし、強いSOIが存在する強相関電子系の理論は発展途上である為、これらの発現機構は微視的に未解明である。申請者の理論により、これらの未解明であった様々な遍歴多極子系の相図が統一的に解明できると期待される。
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