大動脈瘤の破裂および解離による死亡は日本人の死因の上位に位置する。この中でも最も一般的な形成部位である腹部大動脈に形成される大動脈瘤を腹部大動脈瘤(Abdominal aortic aneurysm: AAA)という。AAAは腹部大動脈の進行的な拡張を主病変とする疾患であり、拡張した血管は最終的には破裂に至る。AAA破裂は致死的で大量出血により患者の約8~9割が死に至る。AAAの破裂予測は不可能なため、患者は常に精神的なストレスを抱えて生活しなければならない。現時点でステントグラフト内挿術や人工血管置換術が破裂を予防する唯一の方法であり、薬物による治療法や食事による予防法は確立されておらず、特に食生活がAAA進展に及ぼす影響に関する研究は皆無に等しい。血管組織の代謝異常がAAAの進展に影響を及ぼすと考えられているが、AAA形成に関係する代謝異常に対して食生活がどのような影響を及ぼすのかという知見が非常に乏しい事が問題である。 本研究では、食品科学の観点からAAAに関する基礎的な知見を得ることを目的とした。これまでに、申請者らはラットを用いて新たなAAAモデルを作出した。本研究では、作出したAAAモデルを用いて、①AAAの進展・破裂に関係していると考えられる血管壁内脂肪細胞の出現機構の解明、②破裂を抑制または促進する食生活関連因子を明らかにするための研究を行い、脂肪細胞の出現に関する知見を得ると同時に、腹部大動脈瘤の進展を抑制しうる機能性成分の発見ならびにその作用機序を明らかにした。
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