研究課題/領域番号 |
18J12866
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
桜井 亘大 富山大学, 理工学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | ヒッグス崩壊分岐比 / 拡張ヒッグス模型 / ヒッグス精密計算 / ヒッグス精密測定 |
研究実績の概要 |
素粒子標準理論は、電弱スケール(100GeV程度)の物理を記述する優れた理論として確立している。しかし、その一方で、そのヒッグスボソンの振る舞いを記述する部分であるヒッグスセクターの構造は依然として解明されていない。標準理論はヒッグス2重項場一つからなる最小形が仮定されているが、複数のヒッグス場から構成される様な拡張されたヒッグスセクターの可能性は排除されていない。その上、その様な拡張ヒッグスセクターは、標準理論の枠組みでは記述されない諸現象(ニュートリノ振動、暗黒物質の存在、宇宙のバリオン数非対称性等)を説明できる新しい物理模型にしばしば導入される。故に、ヒッグスセクターの構造を解明することは標準理論の背後にある新物理理論を探求する上で極めて重要である。 ヒッグスセクターの構造解明に対する指針を与える為に、我々は代表的な拡張ヒッグス模型(ヒッグス2重項場を二つ含む模型、ヒッグス2重項場に1重項場が加わる模型等)を包括的に扱った。そして、模型ごとにヒッグスボソンに対する崩壊率や崩壊分岐比、生成断面積に対する理論予言を摂動の高次効果を含めて評価した。拡張ヒッグス模型におけるこれら物理量に対する理論予言は模型に含まれる新粒子の寄与により標準理論の予言からずれる為、そのズレのパターンを模型ごとに包括的に解析することで模型間の識別可能性を調査できる。 崩壊率や崩壊分岐比に対する標準理論からのズレの解析により、我々は本研究で取り扱ったすべての模型が実際に将来加速器実験における精密測定データと各模型のズレのパターンを比較することで、識別可能であることを明らかにした。また、将来の国際線系加速器 (ILC)実験で実現される光子とヒッグスボソンが同時に生成される過程を解析し、電荷2をもつ新スカラー粒子を含む模型においては、その生成断面積が標準理論予言の凡そ6-8倍増強される得ることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は上述した様な代表的な拡張ヒッグス模型におけるヒッグスボソンの信号強度を摂動の高次効果を全て取り入れて評価し、全モードに対する信号強度の標準理論からの可能なズレを模型ごとに見積もることである。ヒッグス信号強度はヒッグスボソンの崩壊分岐比と生成断面積の積で定義される物理量である。本年度の研究により、各拡張ヒッグス模型に対するヒッグス崩壊分岐比の評価が完了している。故に、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験やILC実験で起こり得るヒッグスボソンの生成断面積を評価することで、信号強度を見積もることができる為、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、THDM(ヒッグス2重項場2個の模型)、HSM(ヒッグス2重項場に1重項場が加わる模型)、IDM(ヒッグス2重項場にスカラー2重項場を含む模型)におけるヒッグス崩壊率と崩壊分岐比を摂動の高次補正を含めて精密評価する数値計算プログラム(H-COUP2.0)を構築しており、まずその数値計算プログラムを完成させ一般に公開する。その後、H-COUPプログラムを利用して、LHC実験やILC実験におけるヒッグスボソンの生成断面積の精密評価を行う。そして、最終的にこれらのヒッグス崩壊分岐比と生成断面積に対する精密計算の結果を集約し、ヒッグスボソン信号強度に対する理論予言を上述の全ての拡張ヒッグス模型について評価する。
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