研究課題
胎盤におけるプロスタグランジン輸送体(PGT/SLCO2A1)が分娩誘発に果たす役割の評価を目的とし、PGTのタンパク絶対発現量の測定と、Slco2a1遺伝子欠損マウスの妊娠期間およびホルモン濃度変動について解析した。子宮、胎盤、羊膜・漿膜の中でも、PGTは胎盤において最も発現量が高かった。胎盤3部位(基底脱落膜、海綿状栄養膜細胞層、迷路部)におけるPGT発現量は海綿状栄養膜細胞層において最も高く、妊娠中期以降、海綿状栄養膜細胞層に恒常的に高発現していた。胎児・胎盤Slco2a1遺伝子欠損による分娩誘発への影響を明らかにするため、妊娠期間を解析した。Slco2a1(+/-)雌マウスと野生型の雄マウスを交配した時の妊娠期間は、野生型マウス同士を交配した時と同程度であった。一方、Slco2a1(+/-)雌マウスとSlco2a1(-/-)雄マウスを交配した場合、野生型の雄マウスを交配した場合と比較して、妊娠期間は有意に延長した。これより、母獣のgenotypeが同一であっても、一腹当たりのSlco2a1遺伝子欠損マウス胎児胎盤の割合が高い母獣ほど妊娠期間が延長することが示された。さらに、一腹当たりのSlco2a1遺伝子欠損マウス胎児胎盤の割合が高い母獣ほど、妊娠末期における母体血中プロゲステロン濃度は高いことが示された。そこで、プロゲステロン受容体拮抗作用を有するRU486を妊娠末期に投与したところ、妊娠期間の延長は解消された。これらの結果より、一腹当たりのSlco2a1遺伝子欠損マウス胎児胎盤の割合が高くなる掛け合わせでは、妊娠末期において母体血中プロゲステロン濃度が高く維持され、過期産となることが明らかとなった。本研究より、胎児胎盤におけるPGTが母体血中プロゲステロン濃度を制御し、分娩誘発に関与することが示された。
2: おおむね順調に進展している
PGTはマウス胎盤の海綿状栄養膜細胞層に高発現していることを定量的に示すことができた。さらに、胎児胎盤PGTが母体血中プロゲステロン濃度を制御し、分娩誘発に関与することを明らかにすることができた。以上から、分娩誘発機構を理解する上での基盤成果として、十分であると考えている。
PGTが高発現している胎盤の海綿状栄養膜細胞層から分泌されるペプチドホルモンの発現変動を解析すると共に、ペプチドホルモンが分娩誘発に及ぼす影響を解析する予定である。さらに、Slco2a1欠損による胎盤内PG濃度制御機構の破綻がペプチドホルモン産生に及ぼす影響を解析し、胎盤PGTが分娩誘発に果たす役割を明らかにしていきたい。
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