研究課題
本研究は、ユニークな「形」の超分子ポリマーを創出し、非共有結合で形成される主鎖の形状に由来する特性・機能の発現を目的とする。以前に合成した水素結合性ジフェニルナフタレン分子の集合挙動を精査することで、ランダムコイル構造が螺旋構造に自発的に折りたたまれることが明らかになった。ジフェニルナフタレン分子は水素結合によって環状六量体を形成する。この環状六量体が積層することでランダムコイル構造を多く含む螺旋構造を形成した。この超分子ポリマー溶液を室温で7日熟成すると、ランダムコイル構造が次第に螺旋構造へと変化し、最終的に螺旋構造が何重にも折りたたまれた構造へと変化した。さらに、この折りたたまれるメカニズムが、乱れて配列した分子が同じ鎖内に存在する正しく配列した分子にならって整っていく現象によって説明できることを見出した。この成果は、Science Advances誌に掲載済みである。この分子デザインに基づいて、共役部位を変えた分子を合成し物性を調査してきた。その中で、湾曲したターフェニレンを有する分子が超分子ポリマーを形成することで高い発光量子収率を示すことが明らかになった。この分子は高極性溶媒であるクロロホルム中では芳香環の回転運動に起因する無輻射失活によってほとんど発光を示さない。この溶液に低極性溶媒であるメチルシクロヘキサンを加えることで強い緑色発光を示した。走査型トンネル顕微鏡観察や原子間力顕微鏡観察の結果、この発光溶液中でテープ状の超分子ポリマーが形成されていることが明らかになった。水素結合部位を持たない参照分子は発光しないことから、この分子は超分子ポリマーの形成によって発光していることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
水素結合性ジフェニルナフタレン分子が形成するランダムコイル構造が螺旋構造に自発的に折りたたまれることが明らかになった。ランダムコイル構造から螺旋構造への構造転移を原子間力顕微鏡や小角X線散乱測定で追跡するだけでなく、様々な形態の超分子ポリマーを作り分けられることを利用して、構造転移のメカニズムを見出すことに成功している。また、当初の計画にはなかった凝集誘起発光超分子ポリマーの構築にも成功している。分子デザインには改善の余地があり、発光量子収率の向上や発光色をチューニングすることができれば、有機発光デバイスへの応用も期待できる。以上より、本年度の研究は順調に進んでいると判断できる。
最終年度は、ターフェニレン分子が形成する超分子ポリマーとその発光特性の関係解明に着手する。ターフェニレン分子が低極性溶媒中で形成する超分子ポリマーのナノ構造を走査型トンネル顕微鏡観察や原子間力顕微鏡観察だけでなく広角X線回折測定で精査する。発光特性を種々の分光測定で精査し、ナノ構造との相関を見出す。さらに、共役部位を変えることで発光量子収率の向上や発光色のチューニングを試み、有機ELデバイスへの応用を志向した材料開発を進める。
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Chemical Science
巻: 10 ページ: 752~760
10.1039/C8SC03875A
Science Advances
巻: 4 ページ: 8466~8466
10.1126/sciadv.aat8466
http://chem.tf.chiba-u.jp/yagai/index.html