本研究は、ユニークな「形」の超分子ポリマーを創出し、非共有結合で形成される主鎖の形状に由来する特性・機能の発現を目的とする。 昨年度は、水素結合部位を有するオルトターフェニレン誘導体を合成し、その自己集合挙動と発光特性を調査した。この分子は高極性溶媒中では芳香環の回転運動に起因する無輻射失活によって殆ど発光しない。この溶液に低極性溶媒を加えると、この分子はテープ状の水素結合超分子ポリマーを形成し、さらに集積することで緑色の凝集誘起発光を示す結晶性超分子集合体へと自己組織化することが明らかとなっている。本年度は、この誘導体が凝集誘起発光を示した原因の究明に努めた。分子構造が僅かに異なる参照分子を合成し、それらの自己組織化挙動および発光特性を調査した。それらの結果との比較により、昨年度合成したオルトターフェニレン誘導体が示す凝集誘起発光は、多様な分子間相互作用による協働的な超分子集合によって発現していることが明らかとなった。さらに、この結晶性超分子集合体は、フォトルミネッセンスだけでなく、エレクトロルミネッセンスにおいても有効であることが有機ELデバイスの作製によって示された。 本年度は、ヘキサメチレン鎖とヘプタメチレン鎖をそれぞれ有する二つのジケトピロロピロール二量体の集積構造が有機薄膜太陽電池の性能に与える影響の調査にも着手した。これらの二量体は殆ど同じ光学特性を示すが、可溶性フラーレン誘導体と混合して作製した有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は大きく異なり、ヘキサメチレン鎖を有する二量体はヘプタメチレン鎖を有する二量体の約二倍の値を示した。薄膜の原子間力顕微鏡観察や分子モデリングより、ヘキサメチレン鎖を有する二量体はその分子配座に基づきより密に凝集し、可溶性フラーレン誘導体との良好な相分離構造を形成することが明らかとなった。
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