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2018 年度 実績報告書

極薄有機半導体単結晶トランジスタを用いた高速整流素子の開発

研究課題

研究課題/領域番号 18J12930
研究機関東京大学

研究代表者

山村 祥史  東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)

研究期間 (年度) 2018-04-25 – 2020-03-31
キーワード有機トランジスタ / 単結晶 / 接触抵抗 / 高速動作
研究実績の概要

本研究では、高いキャリア輸送性能を示す極薄有機半導体単結晶トランジスタの応答速度をさらに向上させ、920 MHzのUHF帯で通信可能な有機整流素子を実現することを目標としている。現状、有機トランジスタの遮断周波数は20 MHz程度にとどまっており、サブGHzで動作する整流素子を実現するためには、接触抵抗のさらなる低減と素子の短チャネル化が不可欠である。当該年度ではまず、様々なドーパントを有機半導体と電極の界面のみに選択的に製膜可能な新プロセスを開発することで、有機トランジスタのさらなる接触抵抗の低減を目指した。フッ素系高分子材料を保護層として製膜した後にフォトリソグラフィプロセスを実施することによって、有機半導体にダメージを与えることなくキャリア注入電極界面にのみドーパント層を形成することが可能となった。当研究グループで開発された高移動度有機半導体材料アルキルDNBDTの単結晶に対して、アクセプタ分子であるF4-TCNQをドーパントとして用いた場合において、20 Ω・cmという有機トランジスタとしては最小の接触抵抗の値を達成した。また、昨年度新たに導入されたマスクレス露光装置を用いることによってサブミクロンの短チャネル素子の形成が可能となったため、上記のリソグラフィプロセスを用いて極薄有機単結晶を活性層に用いた短チャネル素子を作製したところ、これまで有機トランジスタで報告されていた遮断周波数の値を大きく上回る38 MHzの動作速度が得られた。さらに、このトランジスタ素子を用いて整流素子を作製したところ、100 MHzでも良好な整流特性を示すことを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、有機トランジスタの接触抵抗の低減と短チャネル電極パターンの作製手法の確立によって920 MHzのUHF帯での無線通信が可能な有機整流素子を実現することを目標としている。当初の研究計画では、接触抵抗を低減する手法としてフレキシブル基板上にあらかじめ作製した電極パターンを有機半導体の上から貼り付けるソフトラミネーション(SL)法の適用を予定していた。しかし、本年度の実験によってSL法ではクリーンなキャリア注入界面が得られるものの、目標とする接触抵抗値の実現が困難であることが判明したため、フッ素系高分子材料を用いたリソグラフィプロセスの開発に新たに着手し、目標値に迫る20 Ω・cmの接触抵抗を達成した。また、マスクレス露光装置を用いた微細な電極パターン形成の検討を行った結果、目標とするサブミクロンチャネルの作製が可能であることを確認した。また、本研究で主眼を置いている僅か1-2分子層の厚みからなる極薄有機単結晶の微細構造解析に共同研究者らと取り組み、1分子単結晶に特有の分子変形によってキャリア伝導特性が変調されることを見出した。1分子層有機単結晶の構造と電気特性の関係が明らかとなったことは、今後極薄有機単結晶を用いたデバイス開発を進める際の指針として極めて重要であると考えられる。このように、当初の研究計画のアプローチとはやや異なるものの、接触抵抗の低減と短チャネル素子の作製技術の確立の両面において、研究計画に記載した目標値をおおむね達成することができており、今後920 MHz以上の高周波で応答する有機整流素子の開発に取り組んでいく準備が整ってきている。

今後の研究の推進方策

本年度の研究成果として、新たに開発したドーパント層のパターニングプロセスを用いて作製したトランジスタは有機トランジスタとしては最小の20 Ω・cmの接触抵抗を示し、チャネル長2ミクロンの素子において100 MHzの整流周波数を達成している。最終年度となる2019年度は、目標とする10 Ω・cmの接触抵抗を達成し、サブミクロンの素子を作製することによって更なる整流周波数の向上に取り組む。
まず、接触抵抗を低減するためのアプローチとして強力なドーピング手法の検討・開発を行う。本年度の研究ではF4-TCNQをドーパントとして用いて20 Ω・cmの接触抵抗を実現したが、より強力な電荷移動相互作用が期待できるF6-TNAP等の材料を使用することによって10 Ω・cm以下の接触抵抗は十分実現可能なレベルにあると考えられる。本年度新たに開発したリソグラフィプロセスはドーパントの種類に依らず適用可能であるため、効果的なドーピング条件の最適化のみを行えば比較的短期間で検討を終えることが可能である。ドーピング材料は適宜購入する予定である。また、上記の化学ドーピング以外の手法として、光誘起したフォトキャリアを利用したドーピング法の検討を昨年度行っていたため、本年度も引き続き検討を実施する予定である。検討に必要なモノクロメータは購入する予定である。
続いて短チャネル素子を作製し、実際に高周波での応答特性を評価する。サブGHzの高周波帯における測定では、現有のネットワークアナライザやオシロスコープに加えて、高周波プローブやSMAケーブルを新たに購入し、独自の測定セットアップを構築する。また、整流素子を無線タグに実装し、UHF帯の無線通信による整流素子としての動作確認も併せて行う予定である。これらの成果については適宜論文としてまとめ、国内外の学会でも発表することを予定している。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [国際共同研究] Stanford Linear Acceleration Center(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Stanford Linear Acceleration Center
  • [雑誌論文] Remarkably low flicker noise in solution-processed organic single crystal transistors2018

    • 著者名/発表者名
      Watanabe Shun、Sugawara Hirotaka、Hausermann Roger、Blulle Balthasar、Yamamura Akifumi、Okamoto Toshihiro、Takeya Jun
    • 雑誌名

      Communications Physics

      巻: 1 ページ: 37

    • DOI

      10.1038/s42005-018-0037-0

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ダメージフリーリソグラフィを用いた高速有機単結晶トランジスタ2019

    • 著者名/発表者名
      山村 祥史、左近 崇晃、佐々木 真理、渡邉 峻一郎、岡本 敏宏、竹谷 純一
    • 学会等名
      第66回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] Band-like transport in two-dimensional monolayer organic field-effect transistors2018

    • 著者名/発表者名
      A. Yamamura、H. Fujii、B. Bluelle、H. Ogasawara、D. Nordlund、T. Okamoto、Y. Wakabayashi、S. Watanabe、J. Takeya
    • 学会等名
      2018 MRS Spring Meeting and Exhibit
    • 国際学会
  • [学会発表] 塗布型有機半導体単分子層単結晶の構造変化とキャリア伝導2018

    • 著者名/発表者名
      山村祥史、藤井宏昌、小笠原寛人、Dennis Nordlund、高橋修、季子祐太郎、石井宏幸、小林伸彦、新津直幸、Balthasar Blulle、岡本敏宏、若林裕助、渡邉峻一郎、竹谷純一
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会

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公開日: 2021-01-27  

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