研究実績の概要 |
本研究では、生物がnmスケールの分子からどのような機構でマクロな方向性を持った運動を取り出しているか明らかにすべく、モデル実験系の創出を目的とする。研究は、(1)生体由来の分子の運動タンパク質用いて細胞に類似する構造および、運動性を有するモデル実験系の創出、(2)非生体由来の物質の液滴等によるマクロな運動性を有するモデル実験系の創出、の2点について展開をしてきた。 本年度は、(1)では、複数の高分子の混雑した水溶液で自律的に生成する細胞サイズの液滴を活用して、運動タンパク質を用いて運動性を有する成果が得られた。運動タンパク質であるキネシンと微小管を上記の水溶液に混合したときにキネシンおよび微小管が液滴の内部に局在し、運動のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)が共存するときに液滴の内部に対流を形成することを明らかにしてきた。原形質流動のような生体の細胞内部の規則的な流動の生成の理解にもつながるモデル実験系として、現在、数理モデルによる検討も含めて論文として投稿準備中である。 (2)では、水面上に浮かぶ油滴の自律的な運動について大きな発展があった。これまでの研究で、水面上に浮かぶアニリンの液滴が自発的に周期的な伸縮運動するときに、複数の液滴が同期して運動することを明らかにしてきている。本年度は、往復直線運動を行う複数のニトロベンゼンの液滴がガラス棒で仕切られた水路で互いに同期をして運動を行うことを新たに明らかにした。液滴の往復運動と界面張力による液滴間の相互作用を考慮した数理モデルにより同期性について理論的な検討を行い、論文として報告している。(佐藤、作田ら、 ACS Omega, 2019)
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