研究課題/領域番号 |
18J13018
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
木村 眞人 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 暗黒物質探索 / 液体アルゴン検出器 / TPC / 素粒子実験 / 放射線 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,2相型アルゴン光検出器を用いた低質量暗黒物質の探索である。探索感度の最大化には液体アルゴンの有する事象分離能力や光子・電離電子生成効率が鍵となる。先行研究や同じ希ガス元素である液体キセノンの応答との類推から,液体アルゴンの応答は電場と反跳エネルギーに大きく依存すると予想されている。しかし,特に高電場下においてこれら基礎特性の理解は進んでいなかった。そこで,今後予定される探索実験に向けた研究として,平成30年度は液体アルゴン基礎特性の理解を重点的に進めた。 包括的な液体アルゴン応答理解を目的として,小型2相プロトタイプ検出器を用いて前年度までに取得していた実データに対する系統的な解析を行った。このデータは,252Cf中性子線源とTime-of-Flight法を用いて暗黒物質とアルゴン原子核の散乱を模擬した原子核反跳事象を取得したものである。検出器シミュレーションを利用し,0.4―2.4 MeVの中性子エネルギー範囲,かつ0.0―3.0 kV/cmの電場範囲で観測したシンチレーション信号とエレクトロルミネセンス信号の双方を液体アルゴン応答モデルによって包括的に説明することに成功した。特に3 kV/cmといった高電場下の知見はこれまでになかった新しいものであり,得られた結果は論文としてまとめている(雑誌投稿中)。この結果をもとに平成31年度に実際の探索実験を遂行する予定である。 平行して,検出器応答の一様性や背景事象(電子反跳事象)に対するアルゴン応答の評価を行うため,低エネルギーγ較正線源の導入を進めた。我々の実験グループでは小型ながら観測光量の非常に高い液体アルゴン検出器の開発にも成功しており,実際にこの高感度検出器を用いて数keVから100 keVの較正線源の実用性を評価するデータを取得した。これらのデータ解析は現在進めている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体アルゴン応答のモデル化に成功したことで,暗黒物質信号に対する検出器応答を種々エネルギーおよび電場範囲で予測することが可能になった。これは探索感度を最大化する上で必要不可欠な情報であり,感度を最大化する環境下で探索実験を行うことできる。また,探索を進める上で避けられない電子反跳背景事象に対する評価も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を統合して探索感度および物理的意義が最も大きくなる検出器運用方法を決定し,実際に地上(早稲田大学構内)で数日から1ヶ月程度の探索実験を遂行する。 また,世界的にみても液体アルゴンを用いた検出器開発とそれを用いた物理実験が活発に行われている。このような状況を鑑みて,我々では特に低エネルギー領域の液体アルゴン応答に着目し,高感度検出器を用いて従来達成できていないアルゴン特性の理解を進める。これは本研究目標である低質量暗黒物質探索のみならず様々な物理実験へ応用可能な知見である。
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