自動車や発電所などから発生する人為起源酸化鉄エアロゾルは、太陽光を効率よく吸収する光吸収性粒子である。しかし、空間分布の測定データはほとんどなく、地球放射への影響はよく分かっていない。また、現在人為起源酸化鉄エアロゾルの測定に用いられているレーザー誘起白熱 (LII) 装置は酸化鉄粒子の検出効率が低い。本研究では「検出効率を改善した新LII装置の開発」および「人為起源酸化鉄エアロゾルの観測データの取得」に取り組んだ。 装置開発ではレーザー共振器外の光をレンズによって集光して、そこに粒子を導入するように設計・構築を行った。集光部分は光強度密度が高くなるので、鉄粒子が効率的に加熱され白熱光を射出しやすくなるからである。その結果、マグネタイト・ヘマタイトに加えて、旧装置では測定することが出来なかった光吸収の弱い酸化鉄であるゲーサイトを検出することに成功した。 新旧のLII装置を用いて、2019年春に長崎県福江島で地上同時観測を行い、新LII装置の性能評価を試みた。その結果、新LII装置は酸化鉄エアロゾルの検出個数が旧装置に比べて少ないことが分かった。このことから、粒子集団のごく一部しかレーザー光の集光部分を通過していない、という技術的課題点を明らかにすることができた。これは今後の鉄エアロゾル観測装置の発展において非常に有益な情報である。また本研究では、旧装置によって得られた観測データを分析して、東アジア起源の汚染大気に含まれる人為起源酸化鉄エアロゾルの粒径分布・混合状態や、一酸化炭素・黒色炭素エアロゾルとの濃度相関関係を調べた。これらは観測データの少ない人為起源酸化鉄エアロゾルの動態を理解するのに重要なものである。この観測研究は国際誌に論文投稿される予定である。
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