大規模量子計算機の実現に向けた超伝導量子ビットの集積化が世界中で活発に行われている.いかに集積するかを研究することはさることながら,超伝導量子ビットの制御・測定精度の向上も依然として重要な課題である.現状の制御・測定手法は,原子物理で培われてきた技術の延長線上にある.そこで本研究では,超伝導量子ビットの制御・測定手法を,「超伝導量子ビットとマイクロ波伝搬モードの相互作用の物理」という観点で見つめなおすことにより,制御・測定精度を飛躍的に改善する新たな手法の開発を目指す. 超伝導量子ビットにおける制御と緩和のトレードオフ関係を解消するために,制御線に配置されるジョセフソン非線形フィルタを提案した.超伝導量子ビットから輻射緩和により放出されたマイクロ波光子はジョセフソン非線形フィルタとの相互作用により反射されるため,超伝導量子ビットのエネルギー緩和を抑制することができる.一方,多数光子を含む制御マイクロ波パルスは,ジョセフソン非線形フィルタを飽和し透明化するため,超伝導量子ビットを効率よく制御できる.実際に,ジョセフソン非線形フィルタを有する超伝導量子ビットの制御・測定系を設計・製作した.ジョセフソン非線形フィルタにより超伝導量子ビットの緩和率が抑えられる状況にも関わらず,制御速度に相当するラビ振動数は抑制されないことを実験的に確認した.以上の結果により,ジョセフソン非線形フィルタが超伝導量子ビットの制御と緩和のトレードオフ関係を解消することの原理検証実験に成功した. 本研究で開発されたジョセフソン非線形フィルタが,超伝導量子ビットの制御・測定精度を向上し,量子計算機の基盤技術になることを期待する.
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