昨年度,我々は,伸張性収縮と電気刺激を併用した(ECC-ES)トレーニングがアジュバント関節炎(AIA)ラットの骨格筋における筋原線維機能低下を抑制することを示した.本年度は,その作用メカニズムを生化学的に検討した.ラットを対照群,アジュバント関節炎(AIA)群に分け,AIA群の左後肢に20収縮のECC-ESを2日に1回の頻度で3週間負荷した後,採取した腓腹筋を生化学的解析に供した.その結果,AIAラットの腓腹筋において,ECC-ESトレーニングは,ミオシン量の減少,タンパク質分解酵素の活性化,炎症-酸化還元関連タンパク質の増加を抑制するとともに,低分子量熱ショックタンパク質であるαB-crystallinの発現量および筋原線維への結合量を著しく増大させた.したがって,ECC-ESトレーニングは,αB-crystallinによるタンパク質保護作用を介し,AIAに伴う筋原線維機能の低下を防止することが示唆された.次に,ECC-ESトレーニングの臨床応用を見据えて,電気刺激誘引性トルクが,ヒトにおいてもラットと同様に等尺性収縮でのES(ISO-ES)よりもECC-ESで増大するかを確認した.健常成人を対象に,片脚にはECC-ES(膝関節50-90度,20度/秒)を,反対側にはISO-ES(膝関節60度に固定)を同電気刺激条件で負荷した.その結果,本負荷条件では,ISO-ES側(22.5% MVC)とECC-ES側(20.0% MVC)の発揮トルクに差異は認められなかった.現在,ラットで認められたECCによるトルクの増大(ISO-ESの1.8~2.4倍)が,ヒトで認められなかった原因を検討中であり,患者への応用には至らなかった.ただし,今後,負荷条件設定の最適化が実現できれば,関節疾患患者に対するECC-ESトレーニングを試みる予定である.
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