研究実績の概要 |
本研究では「高価・有毒な試薬を用いずに、医薬品や天然物の基本構造となる複雑な炭素骨格をクリーンに構築する手法を確立すること」を目的としている。具体的には「電気化学に基づく電子豊富なアルキンと電子豊富な共役ジエンによるラジカルカチオンDiels-Alder 反応の確立と応用」である。電極との電子移動により、不活性な出発原料を一時的な極性転換を利用して活性化することで、炭素-炭素結合形成を目指している。これまでに報告されている電子的ミスマッチなアルキンと共役ジエンのDiels-Alder 反応において金属試薬が利用されているが、よりクリーンな通電という手法を用いた本反応の開発に挑戦した。 まず、4-エチニルアニソールと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンをモデル基質として、反応条件の検討を行った。その結果、目的物の生成を少量だが確認することができた。サイクリックボルタンメトリーの測定結果から、両基質の酸化電位はどちらも同程度であることが分かった。アルキンや用いたジエンが酸化された場合、中間体は非常に不安定なものであることが考えられる。そのため、反応がうまく進行しなかったのではないかと考えた。そこで、酸化されても安定なジエンである9-メチルアントラセンを用いて検討行った。本ジエンは酸化電位が1.0 V(Ag/AgCl)ほどで、アルキンに比べて、酸化電位が低い。したがって、アルキンと9-メチルアントラセンを用いて電解反応を行った場合、ジエンが先に酸化される。 条件検討の結果から、溶媒はニトロメタンを用いる必要があることと支持塩は広く利用できることが明らかになった。さらに、アルキンの汎用性も検討した。その結果から三重結合の電子密度が高い基質ほど生成物を高収率で与えることが分かった。
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