研究課題/領域番号 |
18J13193
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
及川 智博 北海道大学, 教育学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 保育 / 幼児 / 仲間関係 / 保育者 / ほぐし / 実践知 |
研究実績の概要 |
これまで,保育における実践報告から,ひとりぼっちでいる幼児だけではなく,いつでもどこでも一緒に居ようとするような,幼児の仲良し同士の“親密すぎる”関係もまた,保育者たちの困難感の対象となっていることが報告されてきた。本年度は,1)仲良しを形成した後に幼児が抱えうる人間関係上の葛藤,2)幼児同士の“親密すぎる”関係を「ほぐし」ていく援助方略について検討する研究を実施した。 1)では,仲良しを形成した後に幼児が抱えうる人間関係上の葛藤の様相について,女児2名の約1ヶ月半にわたる観察事例から検討した。結果,2人は互いに親密さを確認し合うほど仲良くなったものの,既存の仲良しグループの女児たちが,誰が仲良しグループかを強調する行動をとり,2人を引き離そうと振る舞っていった。それゆえ,たとえ仲良しがいる幼児といない幼児の間で親密さが確認されたとしても,それを深めることができずに葛藤を抱えていることが示唆された。幼児たちは,幼稚園のなかで仲良し関係を形成することで,ときにその仲良し関係に縛られてしまうことがあると考えられる。 2)では,幼児たちの間に形成された仲良し同士の“親密すぎる”二者関係を「ほぐし」ていく,保育者の援助方略のプロセスと特徴について検討した。保育者30名を対象に,ひとりぼっちの幼児,“親密すぎる”二者関係,二者関係とあぶれたひとりぼっち(三者関係)という3つの事例を提示し,いかに援助しようと考えるかを尋ねる半構造化面接を実施した。結果,以下の点が明らかとなった。まず,保育者たちは二者関係に対して,ひとりぼっちの幼児に対する場合とは異なり,自身を媒介として他児たちと直接関係をつなぐことが難しいと感じることがあった。その際,保育者たちは間接的に二者関係の遊びが盛り上がるように援助することで,《集団遊びの充実》を生み出し,最終的な関係の変容を促そうと考えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,計画を一部変更しつつ研究を実施した。結果,本年度は一連の研究の中核となる一定の知見を得ることができた。まず,仲良しを形成した後に幼児が抱えうる人間関係上の葛藤に関する検討を実施した。これは保育者による仲間関係の「ほぐし」の必要性の一端を示唆するものである。成果は,論文として掲載された。また,“親密すぎる”二者関係を「ほぐし」ていく,保育者の援助方略のプロセスと特徴について検討した。結果,「ほぐし」の援助方略を,保育者自身の実践経験に裏づけられた語りから描き出すことができた。この成果は本年度,国内外の学会にて発表した。それに加えて,本研究課題と関連する研究の論文掲載や,学会発表等を継続して実施した。以上の取り組みを通して,次年度の検討課題が明確になってきたことから,本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は特に,本年度で得られた知見をもとに,保育実践を通した「ほぐし」のプロセスを検討していく。保育者たちは保育実践におけるどのような時期に,いつも一緒にいようとする幼児の仲良し関係が“親密すぎる”として気になるのか,またどのような契機を利用しつつ関係のほぐしを促しているかを,幼稚園における実践のプロセスと関連づけて把握する。このことにより,わが国の保育における,仲間関係のダイナミズムの一端を描き出すことを目指す。また,得られた研究結果は随時,学会発表および論文投稿を進めていく。
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