研究課題/領域番号 |
18J13203
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺岡 諒 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 注意 / 聴覚的注意 / カクテルパーティ効果 / トップダウン情報処理 / 聴覚心理学 / 聴覚情景分析 |
研究実績の概要 |
ヒトは,複数の感覚器(例:目,耳など)を介して得られた感覚情報を組み合わせることで,効率よく周囲の環境を把握している(マルチモーダル情報処理).こうした情報処理を実現するためには,各感覚器によって得られた複数の信号の中から,脳は同一事象を発生源とする組み合わせを見つけ出す必要がある.しかし,脳がどのようにこのような処理を実現しているのかは明らかではない.そこで本研究では,特定の事象を背景から際立たせる「注意」に着目し,注意がマルチモーダル情報処理に及ぼす影響から,その情報処理過程を明らかにするのが目的である. 平成30年度は,【A】対象に対して向けられる注意自体の時間的・空間的な特性,そして【B】注意の効果がマルチモーダル情報処理に及ぼす影響について検討した.詳細は以下の通りである. 【A】無響室内に空間的に分散配置したラウドスピーカを用いて,競合音存在下で標的音を聴き取る実験を行った.この聴取環境下で音刺激による標的音の提示位置予告を行い,被験者の注意を操作することで,注意効果の空間的な広がりと,注意効果の持続時間を検討した.本実験の結果,注意の焦点における注意効果が最大で,その焦点から30°離れるごとに注意効果が5~7%程度ずつ減少していくことが示された.さらに,その効果が提示予告の500ミリ秒後を境に徐々に減衰することが明らかになった. 【B】過去の研究において,マルチモーダル感覚情報の任意の組み合わせ(ルール)を数分間観察することで,脳がこの関係性を学習し,その後の知覚に影響を及ぼすことが報告されている(Teraoka & Teramoto, 2016).平成30年度は,このルール学習に注意が及ぼす影響から,マルチモーダル情報処理過程の検討を行った.実験の結果,ルール学習時に注意が対象のマルチモーダル感覚情報に向けられている場合,その学習が促進される可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,(1)注意に関する情報処理が知覚に及ぼす影響とその時空間特性の検討と,(2)注意がマルチモーダル情報処理に及ぼす影響についての検討が目的であった.(1)に関しては,被験者が特定の位置に注意を向けた場合,注意効果が知覚に及ぼす影響から,その空間的な広がりと時間的な特性を測定した.その結果,注意の焦点において注意効果が最大であり,そこから離れるに従って効果の減衰が見られた.つまり,注意効果の空間的な広がりを明らかにすることができた.注意効果の時間特性に関しては,この注意効果は向けてから1000ミリ秒以内に減衰を始める,つまり,1000ミリ秒以上注意効果が持続しない可能性を示した. (2)に関しては,異種感覚連合学習と注意の関係性について,手には意図せずとも注意が向いてしまうという過去の知見を用いて検討を行った.その結果,提示した視覚刺激と空間的に同じ位置に,時間的に同期した触覚刺激を提示することで,異種感覚連合学習が促進される可能性を示した. これらの結果はインパクトが高く,計画通り順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年(令和元年)度は,(1)注意の時空間特性に関する詳細な検討と,(2)平成30年度に得られた知見からマルチモーダル情報処理と注意の関係性に関する検討を行う.(1)に関しては,平成30年度の結果は実験環境や刺激の制約から,正面でのみ検討を行った.そのため,正面以外,例えば真後ろなどでも同様の特性が見られるかは不明であり,過去の研究でも明らかになっていない.そこで本年度は,実験環境や刺激を変更し,様々な位置における注意効果を比較検討する. (2)に関しては,平成30年度で得られた注意の時空間特性を考慮し,刺激の時間的・空間的な一致が異種感覚連合学習にどれほど影響を及ぼすのか,また,注意の焦点から離れるとどれだけこの学習に影響するのかについてより詳細な検討を行う予定である. また,以上の結果をもとに,マルチモーダル情報処理過程の検討を行う予定である.
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