ヒトは,マルチモーダル感覚情報(例:視覚,聴覚)を組み合わせることによって,信頼性の高い知覚や認知を実現している.しかし,この営みがどのような情報処理過程によって実現されているのかは明らかではない.そこで本研究では,特定の事象を背景から際立たせる「注意」に着目し,注意がマルチモーダル情報処理に及ぼす影響から,その情報処理過程を明らかにすることを目的とする.前年度の研究によって,聴覚的注意効果の空間分布と時間的な特性,そしてその注意効果がマルチモーダル情報処理に及ぼす影響を明らかにした.今年度は,【A】聴覚的注意効果の特性に関する詳細な検討と,【B】マルチモーダル情報処理と注意の関係性に関する検討を行った. 【A】に関しては,正面以外に対する聴覚的注意効果の空間分布について検討を行った.日常生活においては,様々な方向から到来する音に対して注意を向けることができるが,これまでの研究では正面以外に対する注意効果についてほとんど検討がなされていない.実験では,無響室内に空間的に分散配置したラウドスピーカを用い,競合音存在下で標的音を聴き取る実験を行った.この聴取環境下で音刺激による標的音の提示位置予告を行い,被験者の注意を操作することで,注意効果の空間的な広がりを計測した.実験の結果,聴覚的注意の空間的広がりが注意を向けた方向によらず一定であることが示された. 【B】に関しては,特定のマルチモーダル感覚情報の組み合わせをあらかじめ獲得するという営み(ルール学習)と注意との関連性について検討を行った.実験の結果,統合する感覚情報の組み合わせが提示される位置に注意を向けて最大で12分間観察することで,ルールが獲得されることを示唆する結果が得られた. 以上の一連の研究を通して,本研究が目指したマルチモーダル情報処理過程の一端が垣間見られたと考えている.
|