森林土壌において「線虫」は,個体数が土壌動物の中で最も多く,生物多様性を考えるうえで重要な生物群である.さらに,線虫は種によって環境変化に鋭敏に応答することから,様々な生態系における生物指標になるが,我が国における森林土壌に生息する線虫の種類や分布は不明である.国内の線虫群集を網羅的に把握することは,全国で線虫を指標として適用する点で重要である.したがって,森林の健全性を示す指標として,全国規模の線虫群集の解明を目的にし,北海道,宮城,栃木,三重,高知,熊本,沖縄県と台湾の8地域のスギ人工林から線虫を収集し,形態観察により分類群推定を行った.さらに,土壌pH,水分量,ECを調べ,土壌環境と線虫群集構造との関連付けを行った.その結果,全調査地合わせて3787頭観察したところ49分類群に類別された.また機能群組成は植物食性線虫が35~59%と北海道,三重,沖縄,台湾で優占し,細菌食性線虫が21~36%と宮城,栃木,高知,熊本優占した.さらに,線虫群集は地域によって有意に異なり,土壌pHのような土壌化学性より年平均気温や降水量によって有意に強く影響されることが明らかになった.以上から,全国規模では気温や降水量によって線虫の餌資源(細菌や植物根)が影響を受け、それぞれの地域で特徴的な線虫群集が形成されることが考えられた.
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