研究課題/領域番号 |
18J13333
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 悠雅 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | ゲーム理論 / 学習 / 社会関係 |
研究実績の概要 |
申請者の研究課題は、自然・社会における生物・人間の間に成立する複雑な関係の発生と安定性を理論的に理解することである。 我々は、その問題の解決のために、個人が他者の内部戦略(すなわち、自分の行動に対して相手がどのような行動を返してくるかの関数)を認知した上で自分の戦略を更新していく動力学的な学習過程を考えた。特に、始めは最も簡単な社会関係として二者間で学習を行う場合を具体的に研究した。結果として、新しい均衡状態に到達が可能で、学習速度に依存して無限個存在する。さらにそこでは、片方がもう片方の利益を犠牲にして自分の利益を多く獲得する搾取状態や、両者ともが多くの利益を獲得する協力状態が見られる。新しい多様な搾取関係や協力関係を生み出したという結果は、現実の複雑な社会関係の発生の最も基礎的なモデルになると思われる。 また、以上で仮定した学習ダイナミクスにおいては、相手の内部戦略の関数全体を完全に把握し、自分の内部戦略の関数全体を更新していく過程を考えていた。しかし、一度に相手の関数全体を把握し自分の関数全体を更新するのは現実的でない。我々は、囚人のジレンマゲームにおいて繰り返しゲームを行う中で相手の内部戦略を推測し、その上で自分の戦略を部分的に更新していく過程を構築した。結果として、同様に搾取関係がわかった。囚人のジレンマゲームという対称なゲームについて、互いに自分の利益を追求する対称な学習プロセスを用いているにも関わらず、初期値の違いが増幅されて様々な度合いの搾取関係が生まれることは、囚人のジレンマでは新奇の現象である。さらに、初期値への依存性も複雑であり、両者の間で初期条件がわずかに違うだけで、搾取する側とされる側が入れ替わってしまうという、現実社会の予測のし辛さを表現するような結果も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
囚人のジレンマにおける搾取関係の発生について研究することまでが計画されていたことであった。しかし現在では、対称性の破れとして搾取関係が解釈できたり、あるいは初期値の依存性をいくつかのパターンに類型でき、その間に不連続な転移が起きるなど、計画以上の結果が多く得られた。加えて、以上の結果はすでに論文としてまとまっており、現在submit中である。 さらに、計画に全く予定のなかった多人数間における認知関係の発生についても理論モデルの構築を行った。我々が参考にしたのは、経済学においてケインズが「美人投票」のアナロジーとして提案した株式市場における認知的な戦略が、生物の配偶者選択においても見い出すことができるのではないかという仮説である。他の人が誰に投票を行うのかを自分の中で推測した上で投資する会社を選ぶことが利益を生み出すように、自然界においても同種の他の個体がどのような異性を好むかを認知して自分の配偶者を選択することが他の戦略を淘汰しうることをシミュレーションによって示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画通り、さらに多人数において認知構造が社会関係を形成する力学的な過程を定式化し、数値計算によって理解する予定である。プレイヤーがより多く存在し、各二者間で囚人のジレンマゲームを行うような状況を考え、このときにも前研究で行った応答関数の読み合い力学系を応用し、搾取機構の発生・安定を観測し、その解析を行う。これは、単なる前研究の拡張では済まない問題であることに注意したい。というのも、各プレイヤーは自分とゲームを行う全てのプレイヤーそれぞれに対して、最適な応答関数を持つにも関わらず、それを一つの応答関数で妥協して対応しなければならないからである。このような状況においては、例えばあるプレイヤーが、他のプレイヤーから搾取されるのを許すような応答関数をとる引き換えに、別のプレイヤーとの間に協力関係を達成し、総和として最大限の利得を達成するような状況が容易に考えうる。このような、応答関数の設定における妥協が、さらに複雑な協力と搾取の共存を生み、より複雑な社会構造を表現できると考えられる。
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