研究課題
雷や雷雲における強電場領域では、濃密な大気中であっても電子が加速され、その制動放射が地上、あるいは宇宙で観測される。雷放電と同期し、数ミリ秒の継続時間をもつ放射を地球ガンマ線フラッシュ、雷雲から放出され、雷放電とは同期せずに、数分の継続時間をもつ放射をロングバーストと呼ぶ。どちらも20 MeV以上まで伸びるエネルギースペクトルが観測されており、電子が相対論的領域まで観測されている証拠である。電場による粒子加速は宇宙の高エネルギー天体などでも起きている可能性が高いが、遮蔽のため観測が難しい。その点では、雷や雷雲は電場加速を「その場観測」できる唯一の例であり、物理学の対象として重要である。地球ガンマ線フラッシュにおいてはフラックスが大きいため、10 MeV以上の光子が大気中の原子核と光核反応と呼ばれる原子核反応を引き起こす。この反応では中性子が叩き出され、陽子が過剰な原子核が残留する。陽子過剰核はベータプラス崩壊によって陽電子を放出し、その陽電子の対消滅輝線が地上で観測される。中性子は大気中の原子核に捕獲され、原子核が脱励起する際の即発ガンマ線がショートバーストとして観測される。今年度はロングバーストにおいて、雷雲の電荷構造や雷放電との関係を地上でのガンマ線・大気電場・電波の同時観測で明らかにした。また地球ガンマ線フラッシュを行うためのフランスの衛星ミッションTaranisに参加し、ガンマ線検出器の地上較正を行った。これら地上と宇宙の双方向での観測から、雷や雷雲における電場加速メカニズムにアプローチしている。
2: おおむね順調に進展している
ロングバーストにおける雷雲中での電場加速については、ガンマ線・大気電場・電波との同時観測が成功し、雷雲中を駆け抜けた雷放電によって強電場領域が破壊され、ロングバーストが途絶したことを実証した。このようなロングバーストの同時観測は初めてであり、この成果はGeophysical Research Lettersに掲載された。地球ガンマ線フラッシュにおける電場加速については、Taranis衛星搭載のX線・ガンマ線・相対論電子検出器の地上較正試験に参加し、検出器の性能評価、キャリブレーションを行った。開発は順調に進展しており、2020年前半に打ち上げ予定である。
地上観測においては、これまで観測されているロングバースト・ショートバースト・地球ガンマ線フラッシュイベントの解析を進め、論文化を行う。特に地上付近で発生する地球ガンマ線フラッシュによる光核反応で生成された中性子の振る舞いをモンテカルロ・シミュレーションで計算し、観測されたショートバーストと付き合わせることで、中性子の発生状況を再現する。Taranis衛星の開発においては2019年9月に行われる衛星全体の校正試験に参加し、ミッションの成功に向けて取り組んでいく予定である、
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Proceedings of International Symposium TEPA 2018 Thunderstorms and Elementary Particle Acceleration
巻: - ページ: 85-92
Geophysical Research Letters
巻: 45 ページ: 5700~5707
10.1029/2018GL077784
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2018/5907/
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00623.html