研究実績の概要 |
雷放電からは10 MeVを超えるガンマ線が放出され、地球ガンマ線フラッシュ (terrestrial gamma-ray flash: TGF) と呼ばれている。これは雷放電で生じた強力な電場が大気中で電子を相対論的なエネルギーまで加速している証拠である。一方でTGFが濃密な大気中で効率よく電子を加速・増幅するメカニズムは未解明である。そこで私は北陸地方の冬季に発生する雷放電を対象としてガンマ線の地上観測を行い、TGFやTGFが光核反応によって生成する中性子・陽電子を観測してきた。 2019年度は石川県・新潟県におけるガンマ線検出器の拡充を行うとともに、雷放電の電波観測グループとの共同研究を推進し、TGFを多角的に研究する体制を構築した。その成果は3本の主著論文として出版した。2018年1月の事例では、雷放電の前に1分間ほどロングバーストと呼ばれるガンマ線が雷雲から放出されており、ロングバーストの発生場所からTGFが発生したことを明らかにした。このことから、ロングバーストを生じさせる雷雲内の強い電場領域がTGFの発生源となっている可能性を提示した (Wada et al., Comms. Phys., 2019)。2017年11月の事例では、通常の検出器では完全に飽和してしまったTGFによる地上の粒子フラックスを、原子力発電所の電離箱高線量計を用いて吸収線量として測定し、TGFの規模や発生高度を推定した (Wada et al., Phys. Rev. Lett., 2019)。また金沢市で観測した2事例においては、TGFがenergetic in-cloud pulseと呼ばれる特殊な雷放電に同期していたことを突き止めた (Wada et al., JGR Atmos., 2020)。このように北陸地方の恵まれた観測環境と多波長による観測で高エネルギー大気物理学を開拓した。
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