ヒト腸内細菌叢DNAを一分子DNAシーケンサーにより解読する研究を引き続き行い、その成果をまとめた論文を細菌叢分野のトップジャーナルであるMicrobiome誌に出版した。この研究では、既存研究を大きく超える規模で細菌叢から「広く深く長く」DNAを読み取り、特に近年大きな注目を浴びているプラスミドやバクテリオファージといった染色体外可動遺伝因子の網羅的な全長配列決定を実現した。論文中ではこれらの全長配列を用いて、世界中の腸内細菌叢サンプルとの定量比較機能解析を行った。さらに、一分子DNAシーケンサーから付加的に得られるDNAメチル化状態の情報などを利用し、これらの可動因子の宿主細菌の推定もしている。細菌叢から細菌ゲノムに加えてモバイロームおよびメチロームを網羅的に決定できるという一分子DNAシーケンサーの有用性が本研究で示され、将来的に応用研究の幅が広がると期待される。 また、上述の研究を通じてより一般の反復配列アセンブリ問題へと関心を移し、本研究費を活用して滞在したドイツのマックス・プランク研究所のEugene Myers博士との共同研究の論文が現在Genome Research誌で査読中である。この研究では反復配列のゲノムアセンブリという未解決問題に対する新しい方法論を提示し、実際にショウジョウバエのヘテロクロマチン領域に存在する縦列反復配列を既存ソフトウエアよりも高精度に決定できることを示した。今後は縦列反復配列を細菌叢メタゲノムを含めた任意の反復配列に一般化して、完全なゲノムアセンブリの実現を目指す。
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