研究課題/領域番号 |
18J13453
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
包 倩 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 親水性メンブレンシート / クオラムセンシング / クオラムクエンチング / アシラーゼ酵素固定化 / バイオフィルム形成抑制 |
研究実績の概要 |
膜ろ過プロセスは水処理装置の高効率化、装置のコンパクト化が可能であることから、排水処理から浄水処理まで幅広く用いられている。しかし、バイオファウリングによるろ過膜の目詰まりが運転コストの増大や膜の劣化等の深刻な問題を引き起こす。近年、細菌細胞の密度感知システムであるクオラムセンシング(QS)とバイオフィルム由来の膜の目詰まりの関連が報告されている。バイオファウリングが進行して細菌密度が増大することで、細菌細胞をやり取りするシグナル物質濃度が一定の値に達すると、細菌の細胞外多糖類(EPS)の産生が始まり、バイオフィルムの形成につながる。また、このシグナル物質の制御がバイオフィルム形成抑制のキーであることが報告されている。そこで本研究は、高透水能とバイオフィルム形成抑制能を兼ね備えた新規酵素固定化型ろ過膜の開発を目的とする。 本研究では、高い透水性能と微生物間の情報伝達物質の分解能の双方を保持する、微生物由来の目詰まりが起こりにくい新しい水処理用ろ過膜の開発である。初年度は特に、ろ過膜の作製とキャラクタリゼーションを中心に研究を進めた。情報伝達物質を分解することで、細菌の凝集体であるバイオフィルムの形成を抑制する試みは挑戦性が高く、当該研究員は熱心に粘り強く研究を進めてきた。 その結果、カルボキシベタインを化学修飾した材料の開発により、ろ過膜表面の親水性の向上に成功した。さらに、情報伝達物質が有するアシル基を分解する酵素であるアシラーゼを固定化した膜に形成されるバイオフィルムを追跡し、酵素を固定化した材料によりバイオフィルムの形成が抑制されることを明らかにしてきた。 これらの基礎的な成果により、次年度ではろ過膜としての目詰まりの抑制効果の安定性や持続性を検討する準備が整った。初年度に作製したろ過膜の有用性がさらに検証できることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題の進捗状況では、今までは純菌系におけるクオラムセンシング抑制酵素固定化膜のバイオフィルム形成抑制効果が見られ、この抑制効果が細菌への致死的な効果ではなく、クオラムセンシングのシグナル物質分解による抑制効果であることが示唆された。これら結果も最初の研究仮説とマッチし、クオラムクエンチング効果によるバイオフィルム形成抑制はより環境にやさしい方法であり、今後も抗菌剤の汎用より自然由来物の実用化が期待されることが考えられる。しかしながら、実環境中ではすべての菌種がクオラムセンシングシステムを持つことではなく、これら菌種において、今回提案した酵素固定化膜の有用性がまだ未知である。そのため、今後の予定として、純菌ではなく、共培養実験系によるバイオフィルム形成抑制効果の確認も必要となってくる。次の年度では、菌種の選択、培養、菌体考察及びバイオフィルム形成評価を含め、より実用化に向けたバイオフィルム形成抑制効果のある酵素固定化材の提案を目的とする。一方、学術研究では、論文投稿として予期より少し遅れているかもしれませんが、投稿準備が揃えた次第、投稿を進める予定である。また学術学会に参加し、世界中同じ研究を進めている方々とコミュニケーションを行い、自分の研究意義を深めていくことも重要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、まず今までの結果をまとめ、論文投稿を行う。A. tumefaciensを用いた実験系において、アシラーゼ固定化材料がバイオフィルム形成抑制に優れた効果を示すことが確認できた(論文投稿準備中)。それと共に、次の共培養実験系におけるバイオフィルム形成抑制効果の考察を進めていく。水処理のろ過膜などに存在する細菌群集は、QSを持つ細菌種のみならず、QSを行わない細菌種、QSを行うが、アシラーゼで分解できない化学物質でQSを行う細菌種で構成される。そのため、実用化に向けた研究として、複合微生物系での酵素固定化型ろ過膜の有用性が求められてくる。今後の予定として、QSを持たない細菌種のバイオフィルム形成試験を行い、酵素固定化型ろ過膜が細菌の生理活性へ及ぼす影響、およびバイオフィルム形成へ及ぼす影響を明らかにする。そして、QSを持つ細菌種と持たない細菌種の2種類の細菌で構成される共培養系を構築し、アシラーゼ酵素固定化DMGABA膜の2菌種を用いたバイオフィルムへの形成抑制効果を考察する予定である。そして、より実用化に向けた高透水能とバイオフィルム形成抑制能を兼ね備えた新規酵素固定化型ろ過膜の提案を行う。更にこれら結果の論文化を進めていく予定である。
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