本研究の予備的検討として、野生型マウスの頸動脈にワイヤーで血管損傷を加えた際の遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に探索した。その結果、最も大きく遺伝子発現が変化したのは予想外にも脂質代謝経路に属する遺伝子群であり、特に褐色脂肪のマーカーで大きな変化を認めた。さらに、これら褐色脂肪マーカーの発現は、抗動脈硬化作用を持つエストロゲン投与によって強く抑制されることが分かった。この結果は、血管傷害後の血管においては褐色脂肪の性質が誘導され、エストロゲンによってそれが抑制されることを示唆しており、血管の褐色化が血管リモデリングに関わっているのではないかという仮説が想起された。本研究では、分子生物学的手法を用いて、血管の褐色化という現象の意義と、エストロゲンシグナルとの関わりについて多角的に検討し、新規動脈硬化治療薬の開発につなげたいと考えている。 上記網羅的解析で得た結果をリアルタイムPCR、ウェスタンブロット、免疫組織染色において確認を行うとともに、血管の褐色化という現象の主座が血管周囲脂肪であることも同定することができた。今後はマウス血管周囲脂肪組織由来細胞株を用いて、褐色化と炎症サイトカイン産生の直接的な因果関係を導き出し、上記動物実験の結果と統合することを目指す。また、エストロゲンの血管リモデリング抑制効果は上記で見出した経路のどこに作用しているのかを、動物実験および細胞実験の両面から明らかにする。
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