研究実施計画は中皮腫幹細胞の形成過程およびその維持機構についての2つの計画から構成されていた。中皮腫幹細胞の形成過程に関しては炎症環境に存在する中皮腫前駆細胞に対しゲノム傷害が蓄積することを明らかにした。また、悪性中皮腫の70%以上に認められるがん抑制遺伝子p16をゲノム編集技術にて欠失させた中皮細胞がROSに対して抵抗性を獲得することを確認した。このことから、石綿による酸化ストレス環境を生存した中皮幹細胞から中皮腫幹細胞が形成されることが示唆された。 中皮腫幹細胞の制御機構に関しては、石綿曝露により得たマウス中皮腫組織を用いた解析を中心に行った。これまで、青石綿を腹腔内投与した中皮腫マウス20個体のうち、半数である10個体において腹水貯留および衰弱が認められ、8個体において悪性中皮腫を発症した。このマウス中皮腫組織から中皮腫オルガノイドの樹立および培養法の確立に成功し、さらに幹細胞基礎培地の検討により、悪性中皮腫幹細胞維持には少なくともWntシグナル活性化およびTGF-βシグナルの抑制が必要であることが分かった。とくに、中皮組織の分化指標となるMesothelinの発現量と腫瘍組織型に関して強い相関性があることから、より詳細なメカニズムについて解析中である。 本研究で樹立した中皮腫オルガノイドの培養技術は臨床における抗がん剤や新規治療薬の治療効果予測にも利用できる可能性を秘めており、本研究の成果をもとに中皮腫幹細胞を標的とした新規治療法に向けた研究を進めていく。
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