転写因子は、ゲノム上の標的塩基配列に結合して標的遺伝子の転写を調節する。多くの転写因子は、ヌクレオソーム構造を形成したゲノムDNAには結合できないことが知られている。一方で、パイオニア転写因子は通常の転写因子では結合できないヌクレオソーム上の標的塩基配列に結合し、クロマチン高次構造を局所的に変化させることが示唆されている。そこで本研究では、代表的なパイオニア転写因子であるFoxA1、およびFoxA1と協調的に働くパイオニア転写因子GATA3に着目し、パイオニア転写因子による標的ヌクレオソーム認識機構と、それらの結合によるクロマチン構造変換機構の解明を目指した。 本年度は、昨年度に確立した、架橋剤を用いたショ糖密度勾配遠心法(GraFix法)によってGATA3-標的ヌクレオソームを調製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行った。その結果、GATA3-標的ヌクレオソーム複合体の立体構造を決定することに成功した。 また、昨年度に引き続き、パイオニア転写因子と標的ヌクレオソーム複合体の立体構造を決定するために必須である安定なサンプル調製のための、ヌクレオソームの安定性を高めるようなヒストンバリアントやアイソフォームのスクリーニングを行った。その結果、ヒストンH2Aバリアントの一つであるH2A.Jを含んだヌクレオソームは、高い熱安定性を示すことを明らかにした。さらにX線結晶構造解析および変異体解析の結果、H2A.Jの40番目のアラニンが、H2A.Jヌクレオソームの構造安定性の責任残基であることを明らかにした。これらの成果をJournal of Biochemistry誌に論文発表した。
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