研究課題/領域番号 |
18J13695
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤波 美起登 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 反応予測 / 反応条件最適化 / 機械学習 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
本研究では、均一系金属錯体反応について、与えられた反応物から得られる生成物を予測する反応予測手法の開発およびその反応支配因子の可視化を行う。さらに、実際に実験を行う際に重要となる実験条件についても適切な条件を数理的に推薦する手法を開発する。機械学習を用いることでこれを達成することを目指し、さらに反応予測においては量子化学計算から得られる情報を適用する。 第1に、これまでに開発してきた反応予測手法の改善と反応支配因子を可視化する手法の開発に取り組んだ。反応予測手法の改善では、用いる機械学習の手法を予測データに適したランダムフォレストに変更し、かつデータをペアワイズ変換した。これを基本的な有機化学反応の予測に適用したところ、この手法の変更により予測精度の改善が確認された。また、ランダムフォレストから得られる結果を解析することで、反応支配因子を可視化した。これを有機化学反応に適用することで、量子化学計算により得られるFukui関数が反応性の記述に重要な情報であるという結果が得られた。これは、量子化学で知られている知見と合致するものであり、本手法が適切に動作していることが確認された。 第2に、反応条件最適化手法の開発に取り組んだ。実験研究者との共同研究により、温度・時間といった連続量の実験条件と、溶媒・還元剤といった離散量の実験条件を一度に取り扱い収率および収量をバランスよく最大化するシミュレータを実装した。機械学習手法にはカーネルリッジ回帰を用いた。実際のシミュレーションを通して、本手法により多くの実験条件を含む場合も効率的に最適化ができる可能性があること、また効率的な最適化のためにはできるだけ実験条件を大きく変更した実験をすることが重要であることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、反応予測手法および反応支配因子の可視化手法の基盤を開発した。有機化学反応に適用することでこれらの手法が適切に動作していることが確認できた。しかし、有機金属錯体反応への適用については、依然として課題がある。一方、実験研究者とのコミュニケーションを通して、反応物から生成物を予測する反応予測手法と同等に目的物の収率を最大化する実験条件最適化が重要であると理解した。そこで、実験研究と協力することで実験条件最適化手法を開発し、その有効性を示唆する結果を得た。これにより、本研究で開発する反応予測手法の実験現場での実用性を格段に向上させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本反応予測手法では、多段階反応の予測において、連続的に素反応を予測する方法を用いる。しかし、均一系金属錯体反応は多種の副反応や、系中に存在する添加物の反応への寄与等があり、必ずしも反応サイクル中の素反応が自明でない場合がある。その結果、機械学習に適用するのに十分な学習データを手動で収集・生成するのは多大な困難を要すること、素反応に基づく予測が確実と言えないことがわかった。 そこで、まず学習データの自動的な生成を試みる。すなわち、与えられた反応物が触媒サイクルにおいてどのような中間体を経由するか、経験的に定めたルールに基づいて反応のネットワークを作成し、実験的に得られた生成物に到達する反応経路を特定する。この結果に基づき、どの素反応が進行すると考えられるか検討する。そして、生成物を左右する素反応について、機械学習を用いて反応に有利な部位を予測する。 また、溶媒や添加物等の反応基質以外の化合物の寄与に反応が左右され、そもそも素反応が不明である場合については、反応機構の詳細をブラックボックスの状態として反応の可否を判断する手法を検討する。これは、前年度に開発した反応条件最適化手法の拡張により取り組む。
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