研究課題/領域番号 |
18J13721
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 悠一 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | イオンスラスタ / 水蒸気プラズマ / 超小型衛星 / 小型推進機 |
研究実績の概要 |
本研究は、10 kg級の超小型衛星に搭載可能な推進機として、水イオンスラスタの実現を目標とした研究である。水イオンスラスタは、省電力と高い速度変化の性能を併せ持つ推進機で、その実現は、近年打ち上げ数が爆発的に増加している10 kg級の超小型衛星の利用範囲を大きく広げる可能性を持っている。当該年度の研究においては、その高性能化を目標とした内部物理の解明に主に2つのアプローチで取り組んだ。 一つ目が水イオンスラスタの一部品である中和器(電子を放出するプラズマ源)の電子輸送過程に関する研究である。中和器内部において電子がどのように輸送されるかは明らかでなく、その機構の解明は中和器の高性能化において大変重要である。当該年度の研究においては、電子輸送に重要な役割を果たしていると考えられる、内部の電場の振動に関して直接的な測定を試みた。結果、定常的な測定に成功し、何らかの振動をとらえることに成功した。これにより、プラズマ源内部の現象への理解が大きく進展した。一方、捕らえられた振動が、予想された振動と一致することは示すことは出来ず、振動の観測は次年度への課題となった。 二つ目が水イオンスラスタ内部の水分子の解離、およびそれによるイオン組成の変化に関する研究である。水分子の解離は水イオンスラスタの推力に影響を及ぼすだけでなく、酸素原子の発生による寿命の短縮を発生させる可能性がある。当該年度は特に推力への影響に重きを置き、1µNクラスの推力分解能を目指した推力測定装置の開発とそれに搭載可能なシステムの構築を実施した。推力測定装置の開発は完了し、測定の上で重要な課題である排熱の問題をクリアした測定系の構築が完了した。また、測定可能なシステムの構築もおおむね完了し、次年度には測定が可能な状態になったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、研究計画で述べた周方向の電場振動に起因する電子輸送過程の解明および水分子の解離によるイオン組成の解明の実施を本年度の目標とした。 周方向の電場振動については、微小プローブを用いた中和器内部のプラズマ測定を実施し、定常的なプラズマの測定に成功した。またこれらの数値が数値計算との比較で妥当であることが確認された。一方、微小プローブを応用し、振動現象の直接測定を試みたが、その成功には至っていない。当初、当該年度の目標は定常的なプラズマの観測を上げていたため、それを超える進捗を生むことは出来なかったが、おおむね計画通りに進捗が生まれたといえる。 水分子の解離によるイオン組成の解明に関しては、推力と寿命という観点から重要であると考えている。推力に関しては、当該年度の実績として推力測定装置の開発が完了し、またそれに搭載可能なイオンスラスタの実験系が整備されたことで、検証のめどが立ち、順調に進展しているといえる。寿命という観点からは、イオン組成の解明が必要だが、数値計算において、組成が明らかになりつつあり、それを補償する実験が進行中である。こちらは計画よりもやや遅れているといえる。ただし、イオンスラスタのグリッドの損耗が、水分子を使用したことになった影響で早くなり、寿命が短くなる可能性が示唆され、現状ではそちらが支配的な影響になると考えられる。そこで、グリッドの損耗を抑える設計やそれにかかわる実験を実施し、一定の成果を上げている。これは当初計画になかった事項であるが、寿命に関する重要な研究課題であるため、本研究の進捗のうちであると考えている。 以上の状況を鑑み、やや計画から変わっているところもあるが、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は大きく二つの研究から成り立っている。中和器の電子輸送能力向上のための内部電子輸送過程の解明と、水分子の解離によるイオン組成の解明である。それぞれについて今後の方策を述べる。 内部電子輸送過程の解明に関しては、当初の予定通り、本年度でプラズマ源内部の微細・高周波成分の測定を目指す。当初、高速度カメラによる自発光測定を想定していたが、実際に試験的な測定を実施したところ、プラズマの密度の低さから露光時間が不十分で測定が困難であることが分かってきた。これに対しては、より感度の高いカメラの使用、もしくは測定対象の波を定常波とする新たなプラズマ源を用いた露光時間の長い測定を行うことで対処する。電場振動が観測できれば、数値計算との整合性がとれ、輸送過程が明らかになったといえると考えている。 イオン組成の解明に関しては、若干計画を修正し、精密な推力測定と分光による負イオンの実現に注力することとする。当初はイオンビーム内のイオン組成を測定するためにE×Bプローブを使用した測定を実施する予定であったが、数値計算の結果、E×Bプローブによっては測定できない負イオンの影響が大きいことが明らかになってきたためである。負イオンの測定には、分光を用いることが有力な手段であるため、前項で上げたカメラによる測定の系を応用し負イオンの測定を実施したいと考えている。
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