研究実施状況について、水分子の解離によるイオン組成の解明、および水イオンスラスタの10 kg衛星への搭載可能性を示すためのシステム解析の2点について述べる。 本研究員の対象とする水のプラズマ源は、水分子が解離することによるエネルギーの損失や酸素原子の発生が重大な研究課題となっている。本年度は、水プラズマの0次元モデルを構築し、それをもとにイオンの組成を推定、影響を見積もった。また、直接的に観測する手法として四重極型質量分析器によるイオン種測定を実施した。 0次元モデルはイオンスラスタの性能解析で広く用いられているプラズマのモデルで、一般的な推進剤であるキセノンではその結果が実験結果とよく一致することが知られている。本研究では、水にかかわる130あまりの反応を整理し26を選択、対象とするイオンスラスタに適応した。その結果、組成の電力・流量依存性が明らかになった。 ビーム中のイオン種測定を実施する方法として、申請者は研究計画中においてE×Bプローブを用いたビーム測定を提案した。しかし、前述した水プラズマの0次元モデルにおいて、質量電荷比が近い物質に対して十分な分解能を持たないE×Bプローブが測定に不向きであること示唆された。本研究では、より質量電荷比の分解能が高い四重極型質量分析器を用いることで、プラズマ中のイオン組成をより詳細に明らかにした。 本研究の大目的は、「省電力化・高燃費化を実現した10kg級衛星に搭載可能な高効率水イオンスラスタの実現」である。本研究員は、これまでの実験結果をもとに、本イオンスラスタをシステムとしたときの性能の解析を実施し、10kg級の衛星に搭載可能な電力・体積で実現可能であること、また、10kg級衛星に搭載した際のミッション遂行能力が一定程度あり十分有用性があることを示した。
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