研究実績の概要 |
本研究では、「細胞膜上の糖鎖構造の変化に起因する悪性形質獲得の分子メカニズムの解明」を目的としている。細胞膜は細胞の中と外を分ける重要な分子装置であり、脂質二重膜の外葉はタンパク質や脂質に結合した糖鎖で覆われている。糖鎖の末端に存在する酸性糖のシアル酸の増大は、浸潤や転移などの癌の悪性形質と深く関わっている。 本研究では、糖鎖の末端のオリゴ、ポリシアル酸を合成する酵素群(St8sia2,4,5)に着目し、これら酵素の合成する糖タンパク質及び糖脂質の構造と悪性形質との関係を明らかにし、末端シアル酸の役割を解明する。これまでに両酵素をそれぞれ過剰発現させたB16メラノーマ細胞(B16-St8sia2,4)を用いて、癌細胞の悪性形質である細胞増殖能、足場非依存的増殖能、浸潤能、遊走能について解析を行った。その結果、増殖能および足場非依存的増殖能がB16-St8sia4で、浸潤能がB16-St8sia2,4で増大していることが明らかになった。 本年は、上記の悪性形質を増大した原因を明確にするため、ポリシアル酸特異的に切断する酵素(EndoN)を用いて細胞を処理し、細胞表面上のポリシアル酸だけが消失している細胞を用いて、未処理細胞と同時に解析を行った。その結果、足場非依存的増殖能および浸潤能がポリシアル酸依存的であることが明らかになった。 さらに、悪性形質における生合成酵素の関わりを明確にするために、両酵素の合成するポリシアル酸の担体タンパク質および下流のシグナル分子について網羅的に解析を行った。その結果、両酵素が形成するポリシアル酸鎖の主な担体タンパク質はNCAMであり、下流のシグナル分子の活性化の程度に差が見られた。 以上のことから、二つの糖転移酵素により増殖能や足場非依存的増殖能の獲得は異なる経路によること、ポリシアル酸鎖が足場非依存的増殖能および浸潤能に寄与することが明らかになった。
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