本研究ではラットの超音波発声(USV)をモデル行動とし、情動音声の認知メカニズムを解明することを目的としている。これはラットのUSVのうち、50kHz帯域周辺の音声が快情動指標として、22kHz帯域周辺の音声が不快情動指標として知られるためである。本研究では当該音声をラットが受容した際の認知的判断・情動的表出・神経活動を調べる3つの実験を実施した。 実験1:情動音声の認知的判断にどのような音響学的パラメータが影響を及ぼすか検討することを目的とし、様々にパラメータを操作した音声刺激を用意し、それが快情動音声と不快情動音声のどちらに知覚されるのかを行動実験で測定した。行動実験の結果、周波数帯域が顕著に音声知覚に影響を与えていた。 実験2:音声が発声者の情動状態を受容者に伝達する効果があるかどうか検討した。50kHzUSV、22kHzUSVのプレイバック時の心拍計測を行い、これを情動生理指標とした。また、音源への接近・回避行動といった心拍以外の情動反応も計測した。50kHzUSVでは心拍の上昇、22kHzUSVでは心拍の下降がみられることがわかった。また50kHz USVへの音源には接近を、22kHz USVには非接近を示し、こちらも音声が快・不快情動反応を引き起こすことを示した。 実験3:どのようなメカニズムで情動音声が聴覚処理を経るか調べるため、一ニューロンの活動記録を行った。情動関連領野である扁桃体核からのデータ取得を実施した。結果、50kHz USVと22kHz USVで異なった反応を示すニューロンが見つかった。これらはいずれかのUSVに興奮/抑制性の反応を示し、もう一方の音声には選択的応答を示さなかった。そのため扁桃体ニューロンが各USVを別個符号化しており、情動価の形成に寄与することがわかった。
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