研究課題
地球温暖化等の影響により、作物の生育環境が劣悪化している。特に乾燥や塩害などの浸透圧ストレスは植物の成長に大きな影響を及ぼす。安定的な農業生産を確立するためには浸透圧ストレス耐性を持つ作物の作出が急務であると考えられる。そこで本研究では植物の持つ浸透圧ストレス応答機構の解明を試みた。これまでに、浸透圧ストレス応答においてSnRK2キナーゼが中心的な機能を果たすことが示されてきた。一方でSnRK2が浸透圧ストレスで活性化するメカニズムは不明であった。そこでSnRK2キナーゼのうち特にサブクラス I SnRK2に着目して、その活性化因子の同定を目指した。サブクラス I SnRK2と相互作用する因子を解析した結果、三つのRaf-likeキナーゼ、RAF18、RAF20およびRAF24を同定した。この三つのRAFキナーゼは試験管内においてサブクラス I SnRK2をリン酸化し、活性化することを明らかにした。またこの三つのRAFキナーゼが欠損した植物体においてサブクラス I SnRK2の活性化が見られなくなった。以上のことからこの三つのRAFキナーゼはサブクラス I SnRK2の上流活性化因子であることが示された。またこのRAF-サブクラス I SnRK2経路は浸透圧ストレス条件下でmRNA分解を活性化することを介してストレス応答性遺伝子の発現を正に制御することで、植物の成長制御を行っていたことを示した。三つのRAFキナーゼと、サブクラス I SnRK2はコケ植物では保存されておらず、進化的に新しい被子植物で広く保存されていたことから、植物の陸上進化に伴い、ストレスかでの成長を有利に進めるためにこの経路が出現したと予想される。本研究で明らかになった浸透圧ストレス伝達機構は、ストレスの初期で機能する新規の経路であることが示された。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature Communications
巻: 11 ページ: 1-12
10.1038/s41467-020-15239-3